いきつぎ
オレが最近ハマっているのは、昔のゲームを引っ張り出してきてやることだ。今はスマホで幾らでもゲームは出来るが、この間押入れの中から出てきたポケモンのサファイアをやり出したらまたハマっちゃって、それからずっと押入れの奥に仕舞ってあるゲームを引っ張り出してきては懐かしくもあり、新鮮さもありながらプレイしている所存だ。
で、今日も今日とてオレはカチャカチャコントローラーを操作していると、ふと腹が鳴った。
ベッドの脇に置いてある目覚まし時計のデジタル表示を見ると、丁度3が3つ並んでいてちょっと感動して、同時にちょっと呆れた。
「そりゃあ腹も減るよな…」
7時に晩御飯を食べてから八時間以上経っていた。
しかも晩御飯のカレーがまた3分間の料理番組を見た姉の気まぐれで本格グリーンカレーだったもんだからまだ舌が軽く麻痺してる始末だ。何か甘いものが食べたい…。
オレは取り敢えずセーブしてコントローラーを放り出し、部屋を出てダイニング兼キッチンへ向かう。真っ暗な階段を降りてキッチンの明かりをつけかけたところで手を止める。
ここで起きてきた家族の誰かと鉢合わせたら面倒だし、オレの狙っている甘いパンは姉のお気に入りだから見つからないようにしなければいけない。ある場所は分かっているから、スマホの明かりくらいあれば十分だ。オレは難なくキッチンまでたどり着いて、流しの上の戸棚を開けた。
「…あれ?なんだよ」
覗き込んでスマホの画面の明かりで照らしてみたけど、そこにはカップ麺が二つとずっと前から埃を被っているスープの缶詰しかない。
「姉貴、喰いやがったな…」
オレはついさっきまで先回りしたつもりだったのが、出し抜かれた気分になった。いや、勝手に思っただけなんだけど。
「仕方ない、これで朝までしのぐか…」
オレは冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出して部屋に戻る事にした。
階段を上がると、ふと違和感を覚えた。ドアが少しだけ開いていて、切れ込みから光が射している。まさか姉ちゃんか?オレは警戒しつつドアを開けると、そこにオレが居た。
しかもリビングからの御下がりでオレの部屋に回ってきたブラウン管テレビでオレがさっきまでやってたゲームとかしてやがる。ドアが開く音に気付いて振り返ったその口には、オレが捜していたチョコレートの甘いパンが咥えられていた。間抜けた顔にくっ付いた目が見開かれてパンが床に落ちた。
「な、なにやってんだよ…?」
誰だよ?と聞く前にその言葉が出てきたのは、誰かって事に関しては誰よりもオレが知っているからだろう。
ゲームをやってる目の前の“オレ”は答える。
「お前、誰だよ?」
そうだよな。やっぱり第一声はそれが正しい。次機会があったらオレは間違えない様にしようと心に決めてから、改めて言う。
「いや、お前こそ誰だよ?」
オレは名前を名乗って、そいつも名前を名乗った。まあ、同姓同名だ。
「ていうか、そんなわけ無いだろ?」
オレはゲームのし過ぎで麻痺した常識が戻ってくると、目の前の知らないソックリさんを指さして叫んだ。
「お前っ!今何時だと思ってんだよ…」
慌てて声を殺したそいつに、オレは一瞬廊下の向こうを窺った。幸い姉は眠っているらしいし、両親も飛んでこないから大丈夫だろう。
「で、お前なにもんだよ?」
「おまえこそ誰だよ?」
そこでこのままいくと誰だよクイズの堂々巡りに突入しそうだと悟って、取り敢えず無害そうなそいつ(甚だ不満ではあるが、オレはオレに負ける気がしない)に尋ねる。
「お前がオレだって言うなら、オレしか知らない事に答えられるはずだよな?」
「当たり前だっていうか、お前こそ誰なんだよ?」
心なしか相手の方が落ち着いているところが腹が立つ。しかもパンを取ったのがこいつだったとは…。
「じゃあ第一問!オレが人生で初めて告白した相手は?」
「菅原さん」
正解だった。今度はそいつが出題してくる。
「その菅原さんから言われた人生で一番凹んだ言葉は?」
「ごめんなさい。キミの事は人として見れなくて…」
オレは膝をついてガックリ項垂れて、そいつはベッドに顔を埋めてガックリ項垂れた。
「あの後、慌てて間違ったって言って、恋人として見れなくてって言いたかったの!って言い訳してた時の菅原さん…」
可愛かったよなあ…。そこで不覚にも声が揃ってしまった。これ以上聞きたくないコーラスも世界には無いんじゃないかと思った。
にしても、これでオレの目の前にいるそいつが、紛れも無くオレであることは確定したわけだ。訳だけど…。
「なんでオレが二人いるんだよ?」
もう一人のオレは知るかという顔をしている。目の前にオレがいるという光景はかなり気味が悪い。
「つか、取り敢えずコントローラー置けよ」
そいつの背後の47インチブラウン管テレビの中でマリオが死んだ。
「取り敢えず、状況を整理しようぜ?」
4畳半にベッドとテレビと本棚に勉強机を詰め込んだこの上なく狭い部屋の僅かな床にオレともう一人のオレは膝を突き合わせていた。
「お前は状況が分かってんのかよ?」
「分からねーから話し合おうって言ってんだろうが?」
オレに小馬鹿にされて、オレはこの上なく腹が立った。こいつの顔がオレじゃなかったら多分殴ってはいなかっただろう。けどそいつはオレの渾身の右フックを簡単に躱しやがった。
「おいおい!落ち着けってぇ、オレってそんなに血の気多かったっけか?」
オレの顔が困惑しているが、オレは今困惑しているわけでは無いので、そいつが戸惑っているんだろう。
「悪い。お前の顔見てたらなんか殴りたくなったんだよ」
「自虐的過ぎるだろ…」
まあ、分からなくもないけど…。そいつはバツが悪そうに床に落ちたパンに視線を落とした。つか、お前が偽物だってことぐらいは分かってるってのに…。オレは敢えて誘いに乗ってやることにした。こういう場合は素直に設定に乗るもんだけど、オレは死んでも警戒を解いたりはしない。いや、実際なったらみんなそうだって。
「じゃあ、冷静に話し合おうぜ。まず、お前は何時からここに居たんだよ?」
「いつも何も、オレは腹が減ったから姉貴の朝飯をパクって来ただけだ」
そいつはオレが用意していた答えを先に言いやがった。いや、そいつもオレだからあってるのか?頭の中がグチャグチャしてくる。
「じゃあなんでオレとすれ違ってないんだよ?」
「そんなこと知るか」
今度は左フックに挑戦してみたけど、慣れない事もあってかやっぱり避けられた。しかも代わりに右手の拳が飛んでくる。けどやっぱりそこはオレだ。あっさり避けられた。ここまであっさり避けられるとオレの喧嘩が弱い理由も何となくわかった。その上で虚しさが込み上げてくる。
「なあ、取り敢えず休戦しないか?」
「了解」
オレたちは再び向かい合った。
「向かい合うの止めないか?」
「背中合わせもおかしいだろ?」
ちょっと考えて、二人してベッドに座ってみたけど気味悪さが倍増しただけだった。
で、結局妥協案としてオレが座布団で、もう一人のオレはベッドに座る事になった。最初からこうしてろよって話だけど…。
「で、お前はキッチンでそのパンを取って戻ってきてオレがやりかけのスマブラをやってたってわけだ」
「いや、これはオレがやりかけでセーブしてたやつだ」
また堂々巡りの気配だ。オレは辟易して憔悴して狼狽して行くオレの末路が見えた気がしてウンザリした。
その時、突然大音量の電子音が鳴りだしてオレともう一人のオレは弾かれたように同時に目を向けた。近くにいたオレが目覚まし時計の頭を叩いて止める。
ふと目の前のオレが落としたパンを拾いながら言った。
「オレ学校行くけど?」
オレは顎が外れそうになった。オレってこんなにノーテンキだったか?
「いやいや、なんでお前が学校行くんだよ?」
「じゃあ、お前が行くか?」
いや、代わりに行ってくれるって言うなら丸一日寝放題で大歓迎だけど、今はそういう事を考えられる余裕はない。
「つか、オレが帰ってくるまでに出て行けよ?オレはパラレルワールドとかSFは嫌いなんだ」
オレは壁に掛っていた制服のズボンとシャツを引っ手繰って着替えた。その間もう一人のオレはまたコントローラーに手を伸ばそうとしていたので、テーブルの上に放置されていた食べかけの甘いパンを投げつけてやった。
食卓で姉から頻りにあのパンはどこ行った?あんた食べたでしょ?と質問攻めから逃げる様に家を出て、黄泉平坂みたいな坂を上りきった先にオレの通う高校があった。そこへ向かう学生の列はまさに亡者の行進だ。
ふと隣りを通り過ぎて行った市営バスの吐き出して行った排気ガスの生温かい空気に苛立ちながらようやくたどり着いた教室で、力尽きたオレは席に着くなり朝のホームルームから居眠りを開始した。睡眠不足も相まってそのまま午前中4時間を居眠りで消費する羽目になった。全く、どれもこれもあいつの所為だ。
「いい加減真面目に授業受けないと、平常点で留年になったら笑えないぜ?」
クラスの優男でメガネ男子で長身でバスケ部で短髪で清潔感に溢れた今井川清二がひとつ前の席に座ってきた。今はサボりの居眠りじゃなくてガチの睡眠補給なんだってと言ったところで信用されないのは日頃の行いの悪さだろう。これもあいつの所為だ。
「その時の為にお前に昼飯奢ってやってるんじゃないか…」
「高校生で同級生に賄賂を贈るなよ…」
今井川くんは呆れた様に頬杖をついて窓の外に目をやった。何を見ているのかと無意識に顔をそっちに向けた瞬間、オレの眠気が吹き飛んだ。
窓越しの優男に黄色い声を上げて手を振っている女子生徒の脇を通る姿に、オレは反射的に顔を伏せた。
「どうした?言わなくても分かってるだろうけど、お前に対する悲鳴じゃないぞ?」
からかってくる今井川くんに、オレは下から顎を狙って拳を突き上げたが、あっさり交わされた。
「まあ、相手がオレだから仕方ないよな…」
疑問符を浮かべている眼鏡の優男の事は気にせず、オレは眠気が限界に達して再び夢の中へ落ちて行った。
ほぼ一日の大半を眠っていた所為もあって、現実と夢の境目が曖昧なまま気が付けばもう帰宅時間となった。オレは無駄な疲労感を手土産に家に帰宅して、まずは部屋の確認へ向かった。
ドアを開けたオレの目に飛び込んできた光景を見て、思わずため息が出た。
背伸びをしてから腰を伸ばして仰け反ったそいつの逆さまの顔とバッチリ目が合った。
「ホントに帰ってきたな…」
「出て行けって言っただろうが…」
ベッドに腰掛けてそいつに軽蔑の眼差しを向けてみたが、そいつはコントローラーを置いて腹を摩った。
「さすがに腹減ったなあ…」
「そっか、じゃあそろそろ家帰ったらどうだよ?」
「それはこっちのセリフだって」
そいつは立ち上がると、いそいそと部屋を出て行った。なんだ?妙に素直じゃないか?オレ。一人になった部屋で、骨董品の赤と白のファミコンが繋がった箱型テレビの画面に目をやった。
「テトリスって…」
その隣にはカセットの山が出来ていた。あいつ何時間ゲームやってたんだよ…。取り敢えず部屋着に着替えてようやく戻ってきた平穏な日常を噛みしめようとしたとき、階段を上がってくる音が聞こえた。オレは嫌な予感がして反射的にドアを抑えた。案の定、ドアノブが回ってドアの向こうから声がする。
「おい、締め出すのは無しだって!」
「お前自体があり得ねえんだよ!」
オレは自分の全権を叫んだ。
「ここはオレの部屋だって言ってんだろ?」
「ここはオレの部屋だって言ってんだろ!」
また声がシンクロした。
でもって、結局オレの方が力で負けた。
これは単純にドアの構造の問題だ。全力で押されたらこっちに勝ち目はないわけであって、決していい訳では無い。結局また戻ってきたもう一人のオレは右手にカップ麺の容器と割り箸を持っていた。
「なに持って来てんだよ?」
「腹減ったからに決まってるだろ?つか、こっちだって大変だったんだぜ?丸一日部屋に引き籠って、母さんが買い物に行くまでトイレにも行けなかったんだから」
「知るかそんなもん」
オレは湯気が立ち上っているラーメンを啜っているそいつにぞんざいな返事を返した。にしても、なんなんだ?これ。オレは不意に目の前のオレに改めて気味の悪さを覚えた。
こいつ、まさかオレと入れ替わろうとしてるんじゃ…。その時、そいつが端を止めて神妙な顔でオレを見上げる。
「お前、もしかして、オレと入れ替わろうとしてるとか…?」
「オレより先にオレの考えたことを言うんじゃねーよ!」
オレは気味の悪さが台無しになるのを目の当たりにしてベッドに倒れ込んだ。
そいつの腹が膨れたところで、改めて話し合う事になった。
「で、お前がオレだってことは分かったし、オレもオレだ」
「で、オレは何故か同じ部屋にいて、しかも二人になっている」
「で、相手の目的とかどうしてこうなったかは不明」
「で、これからどうするかって話だけど…」
こうなると、オレはこの状況をどうにか有効利用できないか考えはじめていたオレに、目の前のオレが壁に賭けた学生服を見て口を開いた。
「取り敢えず、学校どうするよ?」
そいつの素朴な疑問に、オレは答える。
「それはお前行けよ。オレは家で留守番してるからさ」
「お前、それでいいのかよ?」
「お前が言うか?それ」
とは言いつつ、今日のそいつの話を聞く限りでは確かに一日寝て過ごすって言うのはそこそこ骨が折れるようだった。確かに楽しい独房って感じだよな…。
「そう言えば、原付の免許取りたいんだよなあ」
「ああ、それはオレも…って、当たり前か」
しいて言うなら、オレとこいつの違いはここだろうと薄々感づいていた事を確信する。こいつ、なんか抜けてる。
「取り敢えず、お前は学校に出てろよ。その間にオレはバイトして免許取るから」
「それじゃあオレの免許はどうなるんだよ?」
まだ妄想の域を出ていない話に勝手に花を咲かせていたオレはふと我に返って冷静になって、ついでにガックリ疲れた。
「まあ、学校は一日交代でいいんじゃね?取り敢えずってことで」
「思ったんだけどさ」
そいつはオレを指さして言った。
「お前って、結構テキトーだよなあ」
結局、1日交代で学校へ行くことになったが、家に残ってそいつを送り出してから気づいた。
「1日交代じゃ授業の内容もクラスの会話もかみ合わなくなるよなぁ…」
帰ってきたらその事を話してみるか。そう思いながらオレはもう一人のオレがやりっぱなしで放り出していたテトリスに取り掛かった。
エンドレスに落ちてくるブロックを片っ端から消し続ける事8時間。そいつが返ってくるのを待ち遠しいと思うとは夢にも思わなかった。
「…大丈夫か?」
振り返ったノイローゼ寸前のオレを見たもうひとりのオレは若干引き気味に部屋に入って来た。
「ああ、やっぱ一日外に出れないってのは意外と退屈だよな。まるでインフルエンザの学級閉鎖だ」
オレはようやく自由に出入りできるようになった部屋から出て、キッチンへ向かった。空腹を満たすためにカップ麺にお湯を注いで、零さない様に慎重に輸送しているとリビングのソファで寝転がっていた姉貴から呆れた声がする。
「あんた昨日もカップ麺食べてたでしょ?そのうち母さん晩御飯作ってくれなくなるわよ?」
「それはオレの生死にかかわるとだけ言っといてくれよ、ていうかやっぱ何も言うな」
オレは怠惰な姉を放置して部屋に戻りかけたところで、部屋の中にあいつがいるんだよなあとふと思い、階段でラーメンを食べきって流しに汁と容器を捨ててから部屋に戻った。
「で、初めての授業の感想は?」
引っ掛かるかと思って言ってみたんだが、そいつはあっさり「いつも通りだったけど?」と返してきた。
「昨日何か言ったろ?今井川がなんか変に気にして来て鬱陶しかったぞ?」
「あいつはいいんだよ、モテるし」
われながらどんな理由だよ?と突っ込みたくなった。
「どんな理由だよ」
「だからホントに突っ込んでくるんじゃねーよ」
あ、そういえば。とそいつはオレの抗議を黙殺して続ける。
「6時間目のホームルームで教室の係り決めやったぞ?」
「あっそ」
お前は副担任か。興味は皆無だったので適当に受け流す。
「なんか今まで委員やってないやつが指名されて、ジャンケン負けて飼育係になっちゃってさ?」
わるいわるい。そいつは軽い笑いを浮かべながら謝ってきた。つか、なんだよその係り。
「ウサギ小屋の掃除するんだと。まあ、その時だけは交代頼むわ」
そんなのあったのか…。1年の2学期にして初めて知った。
「オッケーって言うわけねーだろっ!つかなに負けてんだよ?」
「仕方ねーだろ?まさか全員グー出すとか思ってなかったんだって」
思わず灰色の溜め息が出た。実際出たわけじゃなくて比喩表現だからあしからず。
なんかこいつのせいで無駄にやる事が増えて行く気がする。まさかそれもこれも、オレを陥れるこいつの作戦なのか?
オレはここ2日で随分疑心暗鬼が板についている気がした。
「おまえって意外とやるよなあ」
教室に着くなり、開口一番今井川に言われて何のことかと思ったが、まあ別に興味も無いので話半分に聞き流すことにした。
「とっくに諦めていたと思ってたけど、まあ一回や二回じゃ諦めないって言う姿勢はいいと思うぜ?」
主語のないまま進んでく今井川の話に、オレは素直に疑問を投げた。
「なんの話だよ?」
今井川はとぼけるなよ、とでも言いたげに視線だけを一度左へ動かした。その方を一瞥すると、そこには駄弁っている集団の中で離れ小島みたいにポツンと座っている女子の姿があった。慌てて目を逸らして今井川の方へ顔を戻す。
「す、菅原さんが、どうかしたのかよ?」
「お前、昨日の事忘れたのか?」
昨日の事…。なんだか嫌な予感がするぞ?
「昨日の?飼育係になったってヤツか?」
「飼育係って、お前と菅原さんに決まっただろ?」
「あーそーなの……はあ?!」
オレは反射的に立ち上がっていた。
教室が一瞬静寂に包まれて、直ぐにまたいつもの喧騒を取り戻す。
「何の冗談だよ?」
「なんだよ、記憶喪失ごっこか?」
眼鏡の奥の怪訝な眼差しがオレを見ていたが、オレはそれよりももっと深刻な事態に陥っていた。
ていうか、あいつ何してくれてんだよ!
一体どんな顔して会えばいいって言うんだよ?とか思っているうちにあっという間に放課後になった。
「じゃあ、通報されない程度にがんばれよ?」
女子ウケ抜群の爽やかな笑顔でオレの肩をポンポン叩いてくる優男に、オレは軽く拳を打ち込んでみたが哀しいかな余裕で躱された。
全く、いつまで情操教育続けてんだよ?命の大切さなら小学生までで重々理解してるっつーのに何が楽しくて高校生にもなってウサギの世話なんかしなきゃいけないんだよ?なんて不満を教育委員会に提出してやろうかと思いながら、放課後オレは特に何も入っていない鞄を引っ掛けて逡巡していた。もういっそこのまま帰ってやろうかと思っていると、 気配を感じて顔を上げると、ちょっと離れたところで気まずそうにちらちらこちらを窺う顔があった。
菅原さんは俯き気味に前髪の隙間からオレの方を窺いながら帰り支度をしている。いや、これから飼育係の仕事だっけ?
「ウサギ小屋の掃除とか正直面倒だし帰らない?」
とか言えれば良かったんだが、一度傷付いた心は意外と強情で中々声が出てこない。焦燥していると、菅原さんが意を決した様にオレの方へ向き直って、けど直ぐにその意思が揺らいで言葉がモゴモゴ聞こえた。
「えっと、その、じゃあ、行きましょうか…」
なんだか他人行儀なぎこちない感じだった。もう4ヶ月も前の話だけど、まあ、そういう反応になるよなあ…。
「あ、ああ…」
ようやくそれだけ返事をして、オレは菅原さんの後に続いて教室を出た。
ウサギ小屋って、こんなところにあったんだなあ。そりゃあ気づかねーよ。
場所で言うと校庭の隅って言うのが普通だけど、ここは完全に校舎裏の物置やらゴミ捨て場のある一角だった。角材の骨組みにトタン屋根、壁は金網で出来たウサギ小屋は軽い動物虐待じゃないかと思ってしまったが、中のウサギは特に気にしている様子も無かった。それとも諦観してるのか?
菅原さんは慣れた様子で用具入れから箒と塵取りを取り出して、小屋の裏に回った。オレも後を追う。
金網の壁の一つに蝶番がついていて、反対の淵には南京錠で止める簡単な鍵がついていた。
「厳重だなあ」
思わずオレの心の声がアウトプットされた。
「ウサギって脱走の名人だから」
菅原さんが自然な口調で答えたので、オレは反射的に
「へえ、そうなのかあ」
と返してしまった。菅原さんが思い出したように俯いて口籠る。オレもつい4か月前の事が甦ってきて気まずくなった。床に目を落とすと、なぜか床だけ地面では無くコンクリートだった。
ウサギが居るスペースには土が敷いてあって、その至る所に穴が開いていた。
その穴の中を覗きこんでみると、奥からこっちを見ている眼差しにオレは薄気味悪さを覚えた。
重苦しい沈黙と独特に匂いに耐えられなくなって、オレはウサギの話を振ってみた。
「なんで土が敷いてあるんだろう?」
我乍ら中々の大根芝居に目を覆いたくなったが、そこは我慢した。
「ウサギは元々、野生では地面に穴を掘って暮らしてるんです。だからその、この方が落ち着くんだって」
再び沈黙が訪れるのが嫌で話を繋ぐ。
「詳しいんだな。昔飼ってたとか?」
「えっと、そういうわけじゃないけど」
好きだから。
唐突にそのワードだけが耳に飛び込んできて心拍数が一気に上がった。まあ、正確には「動物が」ってのが頭に付いてたんだけど。
「あ、そっか、そうなんだ…」
アハハハハ…。オレは不自然な空笑いでその場を乗り切ろうとしたけど、乗りきれなかった。ふとまた視線を感じてその方を見ると、そこにボテッとした白い塊が落ちているのに気付いた。
なにみてんだよ?赤いビー玉みたいな目がそう訴えている気がして、オレは「お前が見てるんだろうが?」と目線で相対する。
「あ、ノエル」
ノエル?何のことかと思ったらウサギの名前らしい。この白い毛玉みたいなのがノエルで、黒いのがリアムで、あとリンゴとポールがいるそうだ。因みに名付け親は今は廃部になった生物部の顧問だそうだ。洋楽好き丸出しじゃねーか。つか、全部オス?
オレは冷めた目つきで斜に構えてるノエルに手を伸ばして抱き上げてみた。その様子が意外だったのか、菅原さんは驚いた顔をしている。
「ん?ああ、掃除の間って持たなくていいんだっけ?」
「え?あ、うん。基本的にはそのままでいいよ?全員捕まえるのは大変だし、周りを掃除するくらいで」
そっか。まあこの穴の中まで掃除しろって言うのも無理な話だ。取り敢えず特に暴れもしない重鎮感すらあるノエルを地面に下ろした。
野菜のクズやら糞やらを箒で隅に寄せて塵取りで回収する作業はなかなか大変だったが、特に苦にならないのはオレが14歳の秋まで犬を飼ってたからだろう。別に生き物が不潔だなとかは思わねえよ?まあ、オレの見た目じゃ動物好きには見えないよな。
掃除が終わって、地面が土色だけになったところでノエルが巣穴の一つに顔を突っ込むと一心不乱に地面を掘り始めた。意外と俊敏な手つきだ。
「ああ、それでコンクリなのか…」
「え?」
また心の声が表にアウトプットされていたらしい。オレは変な誤解を受けない為に言葉を繋いだ。
「いや、小屋の床コンクリートだったからさ、穴掘って逃げられない様にしてるって事かと思っただけ」
そういえば、脱走の名人ってさっき菅原さんが言ってたっけ?
菅原さんはコックリ頷いた。
「まさに大脱走だよね」
ふと見ると菅原さんが一心不乱に穴を掘るノエルを見ながら愛しむような眼差しになった。その微笑に、オレはつい見とれてしまっていることに気付いて、それを悟られない様に慌てて立ち上がった。
「そ、そろそろ帰ろっか?」
「あ、うん。水野くん先帰ってていいよ、私は鍵を返してから帰るから」
「じゃあオレが返しに行くよ」
オレは右手を差し出して、菅原さんは一瞬逡巡した後、名札の付いた鍵をオレの手の上に置いた。
「じゃあ、明日もその、よろしくね」
部屋に戻ると、もう一人のオレがベッドの上で大の字になって涎を垂らしていた。投げ出した右手の先にプレステ2のコントローラーがあった。オレの入室に気付いたそいつは寝癖頭で上半身を起こしながら言った。
「おかえり」
「おう、ただいま」
いや、ただいまじゃねーよ!
とは言ったものの、オレは本日そこそこ機嫌が良かった。菅原さんとぎこちないながらも普段通りに喋る事が出来た所為だろう。それに対してそいつは寝てたくせにかなり不機嫌そうに不満を言ってきた。
「腹減って死にそうなんだけど?」
オレは鞄からサンドイッチを取り出してそいつに投げた。飛んできた三角柱に目を白黒させてから怪訝な視線を向けてくる。
「…なんだよ?これ」
「毒とか入ってねーから、まあ食えよ」
時刻は午後6時を回ろうとしていた。オレはあまりにも気分が良かったので気まぐれにコンビニでささやかな差し入れを買ったのだった。
そいつはオレの顔で眉を顰めて、けど何の疑いも無く袋を開けてサンドイッチを頬張った。
「飲み物は?」
「調子に乗んな」
明日もよろしくねと言われたが、その日は土曜で基本授業は無いし、あっても午前中までだった。という事は午後から暇ってわけだよなあなんてスキップしながら学校へ向かう途中の坂を上っていると、前を歩いている菅原さんが見えた。彼女はオレの声に気付いて振り返ると、小さく手を振ってくれた。なんだかフラれたのが悪い夢だったみたいだ。
後はあのオレそっくりの誰かが居なくなってくれれば最高なんだけど…。
「それ、昼飯?」
菅原さんの右手には鞄では無くビニール袋が下がっていた。菅原さんはそうだよ?と言ってから少し悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「よかったら、一緒にどうですか?」
えっ?マジすか!
なんでも、ウサギのエサになる野菜のクズは家から持ってくるのだそうだ。
「専用のエサもあるんだけど、そればっかりだとなんだが味気ないかなあって思って」
ウサギに優しい菅原さんだった。オレはさすがにキャベツの芯を何もつけずに食べるような偏食家では無いので一緒に餌を上げる作業に勤しんだ。羨ましい事この上ないが、当の本人たちときたらなんでも前歯だけで喰うので可愛いのかなんなのかよくわからないが、それを見ている菅原さんの無邪気な笑顔は必見だった。
随分距離が近くなってきた気がするぞ?これって行けるんじゃね?
ウサギに餌を上げて来ただけのオレに対して、もう一人のオレは冷静だった。
「いや、思い出せよ?一回フラれてるって事実はそこそこ重たいぜ?」
結構高く買っていたんだけど、その一言でその評価は半減した。
「お前なあ、嫌な事思い出させるなよ…」
「いや、お前っていうか、オレってすぐ調子に乗る癖あるだろ?ここは慎重に行くべきなんだって」
今井川にしてみればもうエンディング間近だと背中を押してくれそうだが、そこはやっぱりオレだ。
「折角お近づきになれたんだから、もう少し時間かければ?これから恋人っぽいイベント幾らでもあるだろうし」
「なんだかお前、嫌に親切だよな?」
オレはふと怪訝に思った。なんでこいつ、オレが菅原さんと仲良くしてるのに嫉妬とか不満とか言ってこないんだ?
「いや、告白はお前に任せて、それ以降はオレが引き継ぐってことで」
ポテトチップスを口に入れたままとんでもない事を言いやがった。やっぱりこいつオレと入れ替わろうてしてるんじゃねーか!
「お前やっぱ出てけ」
それからしばらくプロレスごっこに発展して、一日中家にいたそいつの身体が鈍っていたお蔭かどうにか勝った時、不意に階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。
「ヤバイ!お前かくれろ」
と言ってどこにも隠れる場所は無い。押入れはゲームやなんやで満タンで、クローゼットなんて都合のいいものはこの部屋には無い。と、突然バンと大きい音がして、蹴破られたかと思うほどの勢いでドアが開いた。
「姉ちゃん、いや、これは…」
言い訳しようとして、ふともう一人が居なくなっている事に気付いた。姉貴は一度オレに不審な目をしてから、まあいいか興味ないしと読み取れる表情をしてから言う。
「あんたに電話だって」
電話?このご時世に家の電話に掛ってくるって中々如何わしいぞ?オレは混乱する頭の中から言葉を引っ張り出して口に出す。
「だ、誰から?」
「菅原さんって女の子。なんかすっごく丁寧な自己紹介してくれたけど?」
オレの口から素っ頓狂な声が出た。取り敢えず何故か部屋を覗き込んでくる姉貴を押し出す様にして部屋を出て、そのまま階段を降りて親機が置いてあるリビングまで駆け下りた。まさかそんなにオレと話したいことが?はやる気持ちを抑えつつ今年に入って初めて受話器を耳に当てた。
「もしもし、菅原さん?」
スピーカー越しの菅原さんの声から、ただならぬ状況であることはすぐに察しがついた。浮かれていた気持ちが一気に覚めて、切り替わる。
「水野くん?どうしよう、ノエルが居なくなっちゃって…」
水野さんが言うには、ウサギ小屋の鍵を閉めたかどうか気になって再び学校に行ったそうだ。鍵はちゃんと閉まっていたけど、小屋の中で一番目立っていたあの真っ白いモチみたいな奴だけが居なくなっている事に気付いて、暫く一人で探したが見つからず、応援としてオレを呼ぶことにしたらしい。
時刻は午後5時半を回ったところだった。さすがに夕暮が近づき始めている。見つからなくてもひょっこり出て来そうなもんだとは思ったけど、菅原さんの心配そうな声に、オレは返事をしていた。
「分かった、オレもそっち行くから」
電話を切ると、廊下の壁に凭れて話は全部聞かせてもらったとでも言いたげな姉貴のいやらしい不敵な笑みを無視してオレは玄関で靴を履いたところで思い出して、オレは回れ右して階段を駆け上がる。
ドアを開けると、やっぱり誰もいない。
「帰ったのか…」
「いや、だからここがオレの部屋なんだって」
振り返るとドアの影に隠れていたそいつが出来そこないの出現マジックみたいに現れた。
「意外といい隠れ場所だったろ?」
オレは片手間に返事をしながらスマホと財布をポケットに突っ込んだ。
「どこ行くんだよ?」
「別にいいだろ?なんなら代わりに晩飯食っててもいいから」
「お前、菅原さんに近づきすぎるなよ?」
オレはオレの忠告を無視して再び階段を降りる。
「晩御飯までには帰ってきなよ?」
ついでに姉貴の言葉も無視した。
小屋の隅に開いたウサギってホントに脱走するんだなあとか感心したけど、そんな場合じゃない事は菅原さんの青ざめた表情で直ぐに分かった。オレは確かに鍵は掛けたし、現に金網で出来た扉には金色の南京錠がぶら下がってる。じゃあどっから出たんだ?
ふと、小屋の隅に地面が欠けている場所があった。
「ウサギは元々、野生では地面に穴を掘って暮らしてるんです」
ちょっと前の菅原さんの言葉を思い出した。まさかの大脱走だ。ちょっと待てよ?床はコンクリートで穴掘れないんじゃなかったっけ?穴が開いている場所をよく見ると、コンクリートのブロックが欠けていた。あんなデカい奴がこんな隙間から逃げたのか…。
6時にもなると流石に空の色が赤く色づき始めた。
「陽が沈んだら余計に見つけられなくなっちゃう、その前に探さないと」
菅原さんとオレは取り敢えず手分けして校舎裏の茂みや非常階段の裏、物置の隙間なんかの暗くて隠れられそうな場所を探した。
けど、菅原さんが一度探しているだけあって簡単には見つからない。校舎に沿う様に学校の周りを一周したところで、再び小屋の前まで戻ってきた。目の前の茂みは林とかでは無く手入れをしていない木や雑草が生い茂っているだけで、その向こうにフェンスがあって、またその向こうは二車線道路になっていた。平たく言えばいつも通る通学路の坂道だ。
オレは今年の春、この道に降り注ぐピンク色の雨を思い出して、その時に見かけた可憐な少女の事を思い出した。その少女は今、不安と焦りの表情でキョロキョロ辺りを見回している。
秋が近いってことなのか、あっという間に日が落ちて職員室や部活動に熱心な教室とか体育館を残して全部の教室が夜に沈んだ。スマホで光源を確保しつつ時刻表示を見ると、既に午後7時を15分ほど過ぎていた。
「どうしよう、見つからない…」
暗闇の中で泣き出しそうな声の菅原さんに、オレは途方に暮れていると、不意に菅原さんが声を上げた。
「あっ、ノエル!」
オレは菅原さんの視線の先を追うと、茂みの奥がガサガサ動いていた。金網を潜り抜けようとしている白いウサギの姿が月明かりに浮かび上がっていた。
ダメ!そっちに行っちゃ!その声も虚しく、ウサギはフェンスの穴に太り気味の身体をねじ込んで潜り抜けた。
「道に出ちゃった!」
菅原さんが慌てて駆け出して、オレも後を追う。学校をぐるりと回る様にしてフェンスの穴が開いている場所まで行くと、ウサギはモチの塊みたいにボテッとその場に座ったままだった。逃亡に疲れたらしいノエルに菅原さんの表情がフッと和らいで笑顔が戻った。オレもホッと安心して、菅原さんはウサギの方へゆっくり駆け寄って行く。
「もう、心配したんだよ?」
ふと坂の奥から四角い光が昇ってくるのが見えた。
と、ノエルが何を思ったのか白いラインを越えて車道へ飛び出した。慌ててその後を追いかけてウサギを抱えた菅原さんの姿がヘッドライトと車内の明かりで夕闇の中に浮かび上がる。
嘘だろ?
なにが起きたのかも分からないまま、オレは駆け出していた。
バスのブレーキ音が断末魔みたいに耳を劈いて、けどその巨大な顔面は止まる気配すら無く、ノエルを抱えたままの菅原さんはその場から動けない。
ウサギに駆け寄って行ったとき、一緒に迎えに行くべきだった。
オレは自分の愚行を呪いながら、自分の足の遅さに苛立って手を伸ばす。手が届いたところで、なにが起こるわけでもないのに…。
なにかがぶつかる音がした。オレは咄嗟に目を瞑って奥歯を咬んだ。けれどすぐに立ち上がってバスの前に駆け寄る。最悪の映像が脳裏に浮かんでいた。けど、そこに倒れている人影を見て、オレは愕然とした。
地面にボロ雑巾みたいに転がっているのは、オレだった。
「なに、やってんだよ?…」
理解出来ずに困惑していると、そいつは力なく口元を緩めた。
「オレさ、このために来たんだよね…」
は?今なんて言った?
「おい、どういうことだよ?」
ふとそいつの身体が半透明になっている事に気付いた。
「菅原さんを助けに来たんだ。カッコいいだろ?」
じゃ、あとは任せたから。
バスの運転手が血相を変えて下りてくる頃には、もうそいつの姿は跡形もなくなっていた。
菅原さんはオレの事を自分とノエルを助けてくれた命の恩人だと思っているらしく、それがきっかけかどうかは分からないが、教室でもよく喋る間柄となり、今では毎日メールでやり取りするまでの仲になった。けど、あの時のオレは厳密にはオレじゃない。
じゃあなんだ?オレとそっくりな恰好をした天使とか?
だとしたら随分な御節介もあったもんだ。
「にしても、あのセリフって、あんな状況で聞いてもカッコ悪いもんだなあ」
あとは任せた、だってさ。一人になった部屋は、前よりも広く感じて、たかだか3日の事なのに妙な寂しさがあった。
風呂から上がってくるなりオレはプレステ2の電源を入れた。任せられたし、取り敢えずオレはオレを続けよう、あいつの分まで。
不意にスマホが鳴りだして画面を見るとメールの着信画面に菅原さんの名前が表示されていた。
『夜更かしは体に良くないよ?』
そんなことを言われると余計眠れなくなりそうだった。ふと腹が鳴って、オレは目覚まし時計のデジタル表示を見た。丁度3が並んでいてちょっと感動した。
「そりゃあ腹も減るよな…」
オレはダイニング兼キッチンに向かって流しの上の戸棚を開けた。そこには姉貴の好きな甘いパンがある筈だ。
案の定パンを見つけてさあ戻ろうとしたとき、誰かの足音が聞こえて、オレは廊下まで出たところで階段の角に背中を付けて身を隠した。
「姉ちゃん起きて来たのか?」
けど、階段から現れた姿を見て、オレは愕然とした。それと同時に何となくだけど理解した。
ああ、なるほど。
「今度はオレの番ってわけね…」
オレは階段を上って自分の部屋に戻るって、パンの袋を開けた。チョコレートが斜線みたく掛けられた、間にカスタードクリームの挟まった甘いパンを咥えながら画面の一時停止を解除する。
異種格闘技戦が再び始まったところで、階段を上ってくる足音が聞こえてきた。




