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もう一度妻をおとすレシピ 第4冊  作者: 奄美剣星
Ⅵ (自作)掌編小説
99/100

掌編小説/南の島の恋太郎 ノート20140308

掌編小説/南の島の恋太郎 ノート20140308


 どういうわけだかそこには、水族館があった。

 地元の漁師の皆さんが、学芸員と仲良しで、いろいろと届けてくれるのだそうだ。ジャグジャグイカとか、コンチキクラゲとか、ズバッチョダイとか、ききなれぬ魚介類が、大型水槽に入れられている。

 縞シャツを着た流し髪の青年が、女性学芸員にきいた。

「あのお、ジュゴンとかシャチとかはいないのですか? イルカショーとかはやらないのですか?」

「水槽があまり大きくないのでそれはできません」

 南洋庁の役人・田村恋太郎たむら・れんたろうが馬鹿げた質問をした。

 横にいた、ノッポな同僚は、

「恋太郎には妄想癖があります。でも、人畜無害です。その点は保障しますよ」

 といってフォローした。 

ジェシカさんは、亜麻色の髪をポニーテルにした女性で、よく笑窪をつくていた。

     ☆

 南洋庁と水族館の間には、ベランダのついた白い小さな木造の食堂があり、流し髪の青年と同僚のノッポな青年の二人連れは、ランチタイムになると、そこでよく、カレーライスを食べていた。

ノッポな同僚は、川上愛矢かわかみ・よしやという。長髪を後ろに束ねて現地の人みたいだ。半ズボンとスニーカーといういでたちだ。

 ベランダ・パラソル席だ。

 青い海がみえる、

椰子の木がさやさや揺れている。

 恋太郎はホケーっと水平線を眺めていた。

 そこを蒸気をあげた駆逐艦隊が縦一列になって航行しているのがみえた。

「恋太郎、海が青いな」

「珊瑚礁だからね」

「珊瑚礁じゃないと青くならないのか?」

「いやそんなことはない。珊瑚礁だと『ステキ』な青になるんだ」

「珊瑚礁がないと『ステキ』にはならないのか?」

「判らん」

「判らんのにいったのか?」

「判らないから『ステキ』なんだ」

 二人はわけの判らぬ禅問答を延々と繰り返していた。喧嘩しているのではない。そういう習性らしい。

 珊瑚礁の島にあるポポラッチ港の波止場から、ネプチューン号という六百トンの小型貨客船がみえる。乗員乗員四十七名、乗客十名。クレーンがひっきりなく動いて、波止場から木製コンテナを積んでいるのが印象深かった。二人の若者はあの船で内地からやってきた。

 長い髪を後ろで束ねたノッポな青年がいった。

「恋太郎、空が青いなあ」

「うん、青いなあ」

「たぶん海の青を反射しているんだろう」

「反射しないと青い空にはならないのか? 逆に宇宙の色が青で、海こそ逆に青を反射しているのではないのか?」

 二人はまだ続きをやっていた。

 汽笛が鳴った。

 タラップを上がってゆく乗客たちがみえる。

 そのなかに、亜麻色の髪をした若い娘さんの姿があった。

 流し髪の青年は、桟橋をかけてゆき、その人を呼んだ。

「水族館の契約期間が満了になって、本国に帰国するんですよね。……別れるのが辛くって、見送るのはやめようかって思ったのですが、やっぱり来ちゃいました」

 亜麻色の髪の美女は、トランクを抱きかかえて、タラップを駆け降り、桟橋に降り立った。

 甲板の上にいた船長が、

「もう出航の時間ですよ」

 というのだが、もう手遅れのようだ。

 二人は抱き合ってキスをしていた。引き離すのは不可能だ。

     ☆

 ちょーぷ。

「戻ってこーい。恋太郎。おーい!」

 ヤシの木がさやさや揺れている。

 波の音がする。

 ベランダ・パラソル席に座ったノッポの愛矢は、白いテーブルのむかいに座った流し髪の青年を召喚しつづけたのだが、水の入ったコップを手にしたまま魂魄を宙に飛ばし、ようとして降りてこない。

    END


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