掌編小説/むかしの人ぞ偲ばるる ノート20140411
掌編小説/むかしの人ぞ偲ばるる ノート20140411
特に未練とかあるのではない、かなり昔に別れた恋人の夢を頻繁にみるようになった。自分の若さからくる未熟さゆえに、こっぴどいフラれかたで、相手の男に略奪されたというべきか、彼女に見限られたというべきか、まあ、そういう情けない終わり方をした。しばらくの間、当時の二人を知る人たちがいろいろきいてきたのだけれども、知らない、と答えていた。実際は、御親切なことに、結婚した、子供を産んだということを、後に手紙でしらせてくれたわけだが、いちいち周囲に報告する愚は避けた。まだ彼女を憎んでいた当時、別れても男は女を守る義務があるのだと、考えていたからだ。しばらくして自分も結婚した。そして、数十年経ってみた今朝がたの夢だ。スラムのような住宅街で主婦をしていた彼女は、別れたときと同じ若さのままなのだが、自身の産んだ子はおらず、自分と別れた直後に結婚した男とは離婚して、別な二人の子連れの男と再婚していた。なんだか生活に疲れていて、こっちばかりみている。夢の中での自分は同情していた。しかし目をさました自分は、かすかに残っている彼女への復讐心がなす夢だと否定した。幸せにやってるさ、と考え直すのだ。
END
※数年前に、海辺の、さびれた町にあった人気のない本屋で、夏目漱石の文庫本をまとめ買いしまして、ちょっとずつ読んでます。文豪さんには及びもつきませんが、それっぽく書いた習作ということで。^^




