紀行/お上り様快速列車2/2 ノート20160531
紀行/お上り様快速列車2/2 ノート20160531
立川駅は多摩モノレール路線と接続している。
モノレールは、伊勢丹ビル横にある立川北駅で乗ってまず多摩センターにゆく。
高架を走る列車は四両。一番前の席にいて動画撮影とかしていた。立川のモダンな郊外タウンの風景が、多摩川を越えたあたりで田園やら運動場やらといった緑地になり、京王線高幡不動あたりでまたちょっと賑やかになり、多摩動物公園、中央大学・明星大学で緑豊かとなり、また大塚帝京大学あたりで瀟洒な洋風建築が軒を連ね出し、そこから登坂した松が谷団地からは多摩ニュータウンで、一駅先が終点となる。
帰りは下りの終点・上北台までゆき、そこから引き返して立川南の駅で降りる。つまりは一巡したわけだ。――車中の私は内心、(おお、玉川上水だ。太宰治が愛人と入水した名所じゃないか!)と一人はしゃぐ。それにしても、前の席になんとか座ろうとすると、小母ちゃま・お子ちゃまにすぐ割り込まれてなかなか座れない。
横にいた二人連れの体育会系の女子高生が、「私なら列車より速く走れる」と豪語していたのが聴こえたが、確かにそんな気もする。華奢なくせに立派な筋肉をしていた。
さて会場の学芸大に戻る。今度は武蔵小金井駅バスターミナルから学芸大正門にゆくバスにすんなりと乗った。キャンパス内でも主会場となる吹き抜け構造の校舎で、妙齢の素敵な同業者女性と一緒に教室を捜す一幕もあったのだが、残念ながらそれ以上の進展はない。
日曜日の講義は近世墓出土の人骨についてのものだ。「キリシタンの出土品は滅多にないがロザリオにつけるトンボ玉が多量出土することから被葬者が信者と判る」また、「大都市では化粧砂による歯磨きの習慣があるものの富裕層のお洒落の一環で、ふつうは表しかみがかない」あるいは、斬り合いによる刀創・銃創、改葬による傷のある人骨の説明で、「けっこう頭や顔を狙いますよ。……これなんかユニークな傷で顔面を眉間から縦から真一文字に。あるいは手裏剣の的でブスブス顔中に、あるいは頭ばっかりグサリグサリと……」などと会場はサイコパスチックな爆笑の渦と化した。
午後はランチをとりに食堂にいった。実は私の最大の楽しみというか、いまの学生がなにを食べているのか興味津々。素敵な学生・お嬢様方のご案内で、迷わず会場にゆき、カツカレーを食べた。お味は、残念な……。いや、国民の血税でやりくりしている国立大はそのあたり質素で大変よろしい。
そして午後の聴講はほどほどにして切り上げ、明るいうちに帰れるグリーン車両連結の各停列車にまた乗った。上野発勝田行きだが、水戸で各駅停車のいわき行きがいたのでそれに乗り換えて十王で降りた。土浦までの区間ではアテンダント女性が切符切りと軽食飲み物販売をしていたので買った。――横浜崎陽軒の焼売は失敗だった。あれはスーパーでも売っている代物だった。二千円分買ったけれど。
そんな話はどうでもいい。
グリーン列車という密室で殺人事件小説が一本できないかと私は思案した。グリーン車は十両編成のうち二両ある。デッキのある車両の先頭と後方が一階で、真ん中が二層構造になっている。車両先頭房が一から三の縦列、中央通路を挟んで左から右にむかってA・B・C・Dの四席並んでいる。そこから部屋をでてデッキにでる。階段を昇った上階房が四から十二列、下階房が十三から二十一列となるのだけれども、二十一列のところは階段の余りスペースを無駄なく使う構造上、AB席がない。デッキを挟んで後方房が22・23列、その後ろのデッキ左右に乗務員室、連結部を越えたむこう側にある車両の左手が化粧室、右手がトイレになっている。
ここでアマチュア小説の着想。私は冷酷無比にして華麗な殺害テクニックを披露する殺人犯に思いをはせた。――私が犯人。被害者は誰にしよう。動機をどうするか。そうだ、中央線で私を睨みつけてきたあの老紳士めの頭蓋骨をグサリと……(ノート20160531)。
了




