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もう一度妻をおとすレシピ 第4冊  作者: 奄美剣星
Ⅴ 催物・紀行
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紀行/お上り様快速列車1/2 ノート20160531

 旅は列車がもっとも楽しい。次は船、自家用車、飛行機の順。――白状するが、飛行船と宇宙ロケットにはまだ乗ったことがない。……何の旅行でもきっちりとスケジュールは決めない。列車や宿は当日券をとれないと厄介なので数日前までにはおさえるのだが、それ以外は大雑把。――というのもハプニングが楽しいからだ。

 五月二十八日、二十九日の週末はいわきから上京した。特急には乗らない。自家用車をつかって常磐高速自動車道利用すると常磐線のそれを追い越してしまうので半端に感じる。列車に乗ると車窓にもたれて風景を楽しみながら酒杯を傾けることができるというものではないか。そういうわけで、自宅に近い常磐線いわき駅からは乗車せずに、高萩駅からの在来線普通乗車券・グリーン席券を手に入れた。えっ、なぜはじめから、いわき駅をつかわないのかですと? 単純な話で、高萩駅から北にゆくと首都圏に特有な、グリーン車両が連結された普通列車がないのである。

 さて目が覚めると早々に高速道路をつかって高萩ICに降りた。駅には長距離区間利用者に限って四日まで無料という駐車場がある。予約駐車場は駅窓口までいかねばならぬから、当日用を使おうとした。しかし早朝から満車。駅員さんにうかがうと予約駐車場も満杯だ。さすがは昔、栄えていただけのことはある。私は十分間ほど近くに手ごろな一般駐車場、ないしは空き地がないか迷走し、そこでハタと気づく。――そうだ、つぎの駅にゆこう!

 つぎにいったのが十王駅、弥生土器のローカル版の名称にもつかわれている。しかしみたところ駐車場がない。そこでグルグルと駅周辺を迷走、川原に降りるところがあってそこに停めることができそうだ。しかし注視すみれば看板が立っていて、「晴れていても上流が大雨で、突然、増水することがありますのでお気を付けください」と書いてあるではないか。……仕方がない次の駅にゆこうと、国道六号線にでようとしてまた駅に引き返す。――駅近くに車をとめてまずは探索、駅の後ろ側とかもみてみよう! と考えるに至った。駅改札口は地下連絡通路に設けてある。そこを通り越してむこう側にゆくと、JR系列の駐車場運営会社がやっている月極め駐車場があったのだが、日払いものがない。またまた仕方がない、いよいよ次の駅にゆこうかというとき、駄目元という感じで駅員さんにきいてみることにした。――常磐線沿線駅は幸いにしてどんな駅にでも駅員さんがいる。これが磐越東線だの西線だのになったら無人駅がけっこうある。……いやそんなところなら駅前に砂利敷きの無料駐車場があって勝手にお使いください状態だ。

 ご年輩の駅員さんがわざわざ窓口からでてきて手振りで教えて下さった。

「ああ、そこの階段を昇って線路沿いを上り方向に歩いてみて下さい。すぐに分かりますよ」

 なるほど。すぐに判った。駅前ロータリーに三十分のみ可という駐車スペースに自動車を停めていた私は、早速、いったん駅前広場から外郭の路地にでて、五、六分迷走。それから駐車場ゲートをみつけてどうにか高萩駅と同じ条件で駐車できた。――けっきょく小一時間だかに時間を迷走に費やしたというわけだ。

 さらに。

 残念なことに、グリーン車両連結普通列車は、始発あたりのと、九時過ぎのものだった。九時の列車に乗ろうとも思ったのだが、講義を聴かなくては本末転倒。そこで高萩発水戸行き列車に乗って、水戸から上野行きのグリーン連結車に乗ることにした。二十分ほど駅構内・跨線橋通路上にある珈琲店ドトールや売店駅弁コーナーをうろついて待つ。たしか島形ホームの三番線だったと思う、E531 系がきたのでそれに乗った。

 そこで私は高萩ICを降りてすぐのところにあるコンビニで買ったニッカの百八十ミリリットル小瓶と恵比寿の缶ビールを開けた。風景はだらだらと半端な都会――首都圏近郊ともいう――を抜けてゆく。土浦付近で酒がきれたところで、アテンダント女性が乗ってきたので、酎ハイとビールを追加注文。上野にきたときにはすっかり出来上がっていた。とはいっても私はただの酔っ払いではない。ホームに降り立てばジェントルマンだ。しっかり歩く。目的地である考古学協会総会の大会会場は国立学芸大学だ。まずは中央線快速列車に乗って東京駅から新宿を介して渋谷へ。満員に近い。確か東急東横線に学芸大学駅というのがあったな……。と思いつつ鞄から地図を取り出そうとする。そのとき、手先が前の人の膝に触れてしまった。

「なに?」ギロッとスーツの老紳士。

 別にそういう趣味はない。失礼と謝って地図を広げる。あらまあ、会場はなんと、中央線ではないか。とうの昔にキャンパスが移転して駅名だけが残っていたのだ。……危ない危ない。列車はそのまま新宿を越え、三鷹、吉祥寺と、かなり東京西郊に踏み込んでゆく。車内にはリュックサックの客がけっこういる。終点が灰王子なので高尾山登山をするのだろう。――立川にはモノレールがあり、高尾山にはケーブルカーがある。……プルプル、いかんいかん、私は聴講にきたのだ。

 駅から二十分歩いたところに広大なキャンパスがあった。一駅区間の三分の一もあるようなとんでもなく大きなキャンパスだ。校舎はどれも昭和四十年前後に建てられたような感じの三階建てくらいで、これまでに訪れた大学では早稲田大学に次いで干乾びている。……しかも土曜日の聴講者数が少ないためか学生ボランティアによる案内係がみあたらない。私は守衛さんやら、歩いている学生さんに会場までの道順を教えて頂きながらどうにかたどり着いた。講義内容は石器研究のなんとかという話で、私にとってはあまり魅力的なものではなかった。PC画面のスクリーン表示されたグラフが小さくてよくみえない。つまらなくて半分眠ってしまった。

 夜は〝じゃらん〟予約した、都内でもっとも安いという、上野御徒町にあるカプセルホテルに泊まった。食事はホテルが面している立ち飲み屋で一杯ひっかけ、とっとと眠った。和風の寝間着に部屋干し臭があった。夜中に目が覚める。いびきをかく人がいるのでこういう宿では早寝勝ちだ。四階フロントわきにある大浴場は二十四時間やっているので一風呂した。でてくると二時。カプセルベッドではないところの大浴場の隣の仮眠室で、酎ハイ缶二本を買って、肘掛安楽椅子に腰かけ以下民をとろうとした。韓国人観光客が旅の興奮からお喋りしていて眠れるものではない。

 たぶんそろそろ始発があるだろうと四時にチェックアウト。すると駅にゆく途中に二十四時間海鮮網焼き居酒屋があった。腹も減っておらぬのに誘惑に負けた私は、蛤・鮑・サザエをボールに盛った二千円セットがありそれを注文し朝食にした。

 さらにそこから上野駅にむかう途中、夏服薄手花柄ワンピースを着た艶っぽいお嬢さんが、「気持ちいいことしようよ」と片言の日本語で話しかけてきたが、私は紳士であるから、ニコッと会釈してその場を立ち去り、同駅から山手線・中央線と乗り継ぎ立川駅で降りた。




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