表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度妻をおとすレシピ 第4冊  作者: 奄美剣星
Ⅳ 資料
84/100

資料/文豪スパイとボーイフレンド ノート20160616

 サマセット・モーム(1874.01.25-1965.12.16.享年91歳)。

 モームが生まれたのはパリだった。父親は英国人弁護士、母親は愛情をそそいでくれた。兄たちもいたが寄宿学校にだされていたため、母親の愛情を一身に浴びた。ところがまず母親が亡くなり、しばらくして父親も亡くなった。孤児になった彼はヴィクトリア女王が治める英国に帰国し神父で子供がいない伯父夫妻のところに引き取られた。伯父夫妻はそれなりに親切にしてくれたのだが心理的に少し距離を持った。ときたまこの伯父をモデルとした人物が作中にとんだ俗物として登場する。伯父のところには蔵書が多くそれを読み漁った。

 モームは寄宿学校にゆかされるのだが、うまくなじめずにやめさせられたり、やめたりもするのだが、医学学校にゆき研修をすると、人間を知りたいという意識に芽生え、卒業し医師免許を取得するのだが、修業はせずに文筆活動に入る。『人間の絆』はこのころ、性悪女にひっかかって苦労話とされているのだが実態は不明。同作は芸術性が高く他の作品群とは一線を画すのだという。

 学生時代に身体を壊し、イタリアにカプカ島というリゾート地で療養した。島は同性愛者の巣窟で、そこで嗜好に目覚めたのだという。しかし同時期、オスカー・ワイルドが同性愛で逮捕されるというニュースを受けショックを受けた。そのため、モームは同性愛嗜好者であるということを、同性愛者に対して寛容な時代となってもなお隠すことになる。――モームは社交界の華でスキャンダラスな人妻と結婚し娘を設けた。この人妻との間には娘が生まれる。結婚生活はカモフラージュで妻の多情は利用価値があったわけだが、この愛は薄くほどなく破局・離婚した。

 第一次世界大戦に入ると、ペーパー医師だったのだけれど医師免許があることはある。それで前線で従軍医師として駆り出されることになる。ちょうど作家として文壇に認められてきたころだった。英国諜報部は、その立場を利用して、敵国の情報をつかめないかという話が諜報機関から持ち込まれて、スパイ活動に入る。スパイ小説『アンシャンデン』はここでの体験が元になっている。本作は短編オムニパス形式をとっている。――モームは、連合国を勝利に導いた英国名宰相チャーチルの友人でもあり、同作品がチャーチルの目にとまると、「国家機密だから」といわれ、何篇かを削除する羽目になった。それでも残った数は長編小説一冊分の分量がある。

 チャーチルが陸相のころ、連合国の一つロシア帝国が瓦解し、ドイツに単独講和をしようとしていた。ソビエト連邦を築き赤軍を率いるレーニン、それに対抗する帝国の残党とでもいうべき将軍たちは白軍と呼ばれた。ドイツ軍や赤軍の支配地域である、ヨーロッパ側からはゆけず、遠回りして、大西洋航路、アメリカ大陸横断鉄道、太平洋航路、日本の横浜上陸-列車移動-舞鶴港出立、日本海航路、ウラジオストックからシベリア鉄道をつかってペテロスグラード(レニングラード)入りして白軍将軍との交渉にあたるのだが、結局、英国議会はチャーチルの独断専行を許さず、その試みは失敗に終わる。

 さて話を第一次世界大戦、1914年10月に、フランスの野戦病院で勤務していたころ、赤十字ボランティアとしてやってきた18歳年下のアメリカ青年ハックストンに出会った。大変頭が良くてフランス語にも長けた教養もある。加えてすこぶる美男子だった。大戦後にハックストンは秘書となり、主人と世界旅行にでかけるのだが、1944年11月、ワシントンの病院で肋膜炎により死亡。朦朧とした状態のハックストンは、「よくも僕の人生を台無しにしてくれたな」と怒鳴って亡くなった。

 ――有能だが放蕩癖のある息子とそれに寛容な父親という間柄であったのだが、たぶんモームに出会わなければ有能なビジネスマンとして成功していたのだろうとも、モームの愛につきあって飼い殺しにされたがゆえに酒とギャンブルで荒れ、早死にしたのだろうともいわれている。この人の逸話。ギャンブルで勝つと自動車を主人にプレゼントもしたが総じて負け、つけはモームが払った。青年が重病となるとモームの献身的な介護を受けた。

 ハックストンの死後、アラン・サールという英国人の美男子がハックストンの後釜となる。ハックストンより十三歳年下で、彼ほどの才覚はなかったのだけれども温和で秘書として申し分がない。また晩年のモームの死に水をとったのも彼だった。主人はボケて泣きわめき、ひどく罵りもしたが、辛抱強くつかいあった。

 モームの死の直前、主人が亡くなれば生活の保障がないため、養子になることを望んだので、遺産を巡って、娘のライザと法廷闘争をする。結果、養子にこそはなれなかったのだが、パートナーとして、主人の豪邸・モレスク邸とかなりの資産を相続することになる。

     了


引用参考文献

 行方昭夫『モームの謎』岩波書店2010年

 行方昭夫『サマセット・モームを読む』岩波書店2013年

 ほか




メモ

● 行方昭夫 『モームの謎』 岩波書店 2010年


カバー折込(著者紹介)

1931年、東京に生まれる。1955年、東京大学教養学部イギリス課卒業。現在、東京大学名誉教授。著書に『サマセット・モームを読む』『モーム語録』『英文解読術』ほか。訳書にモーム『人間の絆』『月と六ペンス』『お菓子とビール』『サミングアップ』『モーム短編選』ほか。


カバー裏書

「『人生に意味などない』―こう達観した文学者モームの人生には、幾多の謎がある。モームが愛した女性、そして男性とは誰か。結婚から晩年に至る実態は。スパイだったというのは本当か。晩年に襲ったスキャンダルとは。モーム作品を愛する著者が、作品を改めて読み解き、新資料も用いつつ書き下ろした全十二章。岩波現代文庫オリジナル版。」


目次

はじめに

第1章 モームは屈折した子供だったか? 1

第2章 モームは本当に医者だったのか? 23

第3章 モームが愛しかつ憎んだ女性「ミルドレッド」とは? 33

第4章 モームはどうして劇作家になったのか? 55

第5章 モームは女嫌いだったのか? 75

第6章 モームの結婚と離婚の真相は? 107

第7章 モームが愛したハックストンとは? 125

第8章 モームは本当にスパイだったのか? 143

第9章 モームの熟年自画像とは? 157

第10章 モームは熟年自画像とは? 185

第11章 モームの老年についての考えは? 209

第12章 モームの最晩年とは? 217

付録 モームとの架空の対話 233

参考文献 259

あとがき 261

年譜




● 行方昭夫 『サマセット・モームを読む』 岩波書店 2013年


帯紙

「人生は織り上げられたペルシャ絨毯。本邦初訳から70年のいま、新しいモーム像を明らかにする。」


カバー折込

「『人生とは何か』『人生の意味は』と問い続け人間を鋭く描いたモーム。数々のモーム作品の翻訳を手がけた著者が、邦訳の流れをたどり、『人間の絆』『月と六ペンス』『サミング・アップ』『かみそりの刃』『赤毛』『大佐の奥方』を読み解きながら、書簡も自伝も残されていない。謎に満ちた作家の生涯とその人生観に迫る。」


目次

はじめに

序章 モームと日本 1

第1章 人間の絆 27

第2章 月と六ペンス 71

第3章 サミング・アップ 103

第4章 かみそりの刃 127

第5章 赤毛 大佐の奥方 157

モームの関連年譜 193

あとがき 209



ノート20160616


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ