資料/妖精分類・試案004 幻獣系妖精 ノート20160715
妖精分類・試案004 幻獣系妖精 ノート20160715
前回は基本が人型で武闘派・インテリ派であるところの邪神・鬼族とでもいうべき存在を扱った。ここでは幻獣的なモンスターを扱いたいと思う。
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その5 竜
インドにはナーガという蛇神がおり、一族をあげて、釈迦の悟り瞑想中にやってきた悪魔たちを追っ払ってやった。いい奴である。しかし中東あたりの砂漠地帯の火トカゲ・サラマンダーというのは邪悪で、毒竜とか火竜・炎竜と呼ばれるに至った。その両方がインド・ヨーロッパ語族ケルト人の移動ともにイングランド島にも持ち込まれる。
赤竜・ナーガ系はアーサーの化身、黒竜・炎竜は古代ローマ帝国の軍旗であることから、化身となって、前者はいい奴、後者は悪い奴という線引きがなされる。
他方、中世・東ローマ帝国滅亡をもって、大陸側黒竜自体も悪役に転じる。
トルコ帝国と欧州勢が攻めぎあったバルカン半島には、欧州=ローマを象徴する軍旗をはためかせる竜騎士団なるものが存在したが、ハンガリー、ルーマニアがアイデンティーを失くしてゆくと、Dragon, Devil, Dracula(竜・悪魔・吸血鬼)の三位一体化が生じた。こうして竜たちは、イングランドの赤竜を除けば、中世を舞台にしたロマンス文学(騎士物語)では英雄たちの引き立て役・悪役となった。
では本題、ポール・ジョンソンの『リトル・ピープル』の掲載記事の説明に戻ろう。
ウェールズの黒竜系SALEERANDES。鱗に覆われたトカゲ形変温動物。人間には害を与えない。寒がりで人間が起こした火を求めて彷徨う。――※私見:痛々しくも弱った炎竜で、ナーガ化しているような気がする。
シェトランド諸島、オークニー諸島のUILEBHEISTは、島周辺の海の番人で怪獣・海竜の姿をしたヒドラだ。――※私見:おそらくは氏族トーテムで、日本の九頭竜(黒竜)や八岐大蛇なんかと関連のある、現在、欧州一部地域と日本で生き残ったユーラシア石器時代・大陸神話からきているのだろう。
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その6 妖精馬
ウェストミッドランドのKNPSは魔性の馬だ。11月2日、ハロウィン(死者の日)の出し物で英国の人々はシーツをかぶせた模型を引っ張って町の目抜き通りをパレードする。――これが、ギリシャ神話起源の海馬トリトンのローカル・バージョンであるナックラヴィーや、オリエント起源であるキマイラ系のグリホーンが加わる。それらも悪魔の馬たちだ。
スコットランドのNUCKLELAVEESは、上半身が人間で下半身が馬で髪や皮膚がない。皮膚がないため、黄色い血管に流れる黒い血液やその赤い筋肉と白い腱がはっきりみえる。たいへん怒りっぽく、人間に敵対的だ。海棲なので淡水を嫌い、淡水である湖や川は渡れない。また雨が嫌いで日照りも起こす。その結果、人間や家畜など陸棲生物は病気になったりして打撃を与えることになる。
ウェ-ルズGRIPHONSは馬の頭と山羊の身体を持つ。人語を操る。ハロウィンまでに収穫しないと農作物を荒す。
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その7 妖精犬・黒妖犬
イングランド、スコットランドのBLACK ANGUSは、CUSITH、あるいはバーゲストともいう。ウェールズのクーン・アンンヌーンに相当し、夜の間、沼地や荒地を歩いている。ギラギラとした黄色い目、鋭い牙、湿った肉球をもつ大きな黒犬で、イングランド北部やスコットランドの田園地方を徘徊。夜行性だがその姿をみた人間は二週間以内に死ぬ。スコットランド低地では、角があるといわれている。
ウィスト・ハウンド、ウィシュト・ハウンドとも呼ばれる、デヴォン、コンウォールのWISH HOUNDSも同族のようだが、具体的な行動目的がある。無頭形の黒犬の群れ。幽霊犬の群れ。ダークム-アのウィストマンの森に出没しては人間の魂を狩る。主人は悪魔で、対立するコンウォールのトレギーグルという悪魔を追いかけている。
――※私見:チャーチル元首相が不遇だった時代に軽く鬱症状を起こし黒い犬の幻覚をみたという。中世以来、欧州全域に出没した悪魔犬でもある。
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その8 妖精豚
無敵の剣と甲冑に身を包んだ、マン島のMANNAN妖精王は、アイルランドの海神で守護神でもあり名付け親でもある。ツゥアサデダナーンが敗北した時、妖精王は屠殺して食しても翌日には生き返るという魔法の豚を与えた。――※私見:魔法の豚:クローン系食糧で中国の伝説にでてくる視肉に類似している。意訳として不死の豚といったほうが適切かもしれない。
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その9 妖精鳥
スコットランドBOOBRIEは体高30㎝ほどの黒い水鳥で大きな鋭い鉤爪と1mの嘴がある。水上を跳び、水中を泳いでは、羊や牛を運ぶ船を探し、水中に引きずり込んで食べる、典型的な怪鳥だ!
イングランドSHOKSは、姿を変える邪悪な妖精あるいは幽霊だ。タテガミがけばだち、皿のような眼をした犬や牝牛の姿でも現れる。驢馬の頭をした人間の姿でも現れる
マン島SLEIGH BEGGYは、マン島の先住民。烏のような脚をもつ小さな裸の妖精で、地下や河川の土手、水中を棲家とする。競走馬を盗む習性があるが、銀や灰、潮、エニシダ以外の黄色い花を置いておくとこなくなる。――※私見:馬泥棒のイメージは獣人か !
ウェールズBWCCIODは小柄で痩せている。紫色の嘴、長くて尖った鼻と指、大きな脚という姿ですばしっこい。滅多に人の目にはとまらない。火を好み、暖炉の居心地のいい家を棲家とし、住人の邪魔をしたり酷い悪夢をみせたりする。――※家つき妖精としては悪霊系といえる。外観がショックに似ていているからそれの家つきバージョンとみてよいと思う。
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その10 海獣・魚貝系妖精
アイルランドやスコットランド沿岸の島々に出没するROANEは、アザラシの妖精一族で、後述するセルキーに似ているが、より親切で穏やかだ。
スコットランドSHELLEY COATSは、悪戯好きな水辺のお化け・妖精で、浅瀬やせせらぎ、池や淡水湖などにでる。皿のような丸い胴体で赤紫の貝殻のような鱗で覆われている、そして大きな口と大きな目をもつ。空を飛べる。夜間、よくみかけられ、水場に立ち寄った旅人をかまうのが好きで、泳ごうとすると追い払う。
――天照大神を岩戸から引っ張り出した著名な国津神・猿田彦は、晩年・故郷伊勢国・五十鈴川で泳いでいる最中に、比良夫貝貝に腕を挟まれて溺死している。比良夫貝はファクターとしてシェリーコートに類似している。
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その11 昆虫形妖精
ワイト島のGOOSEBERRY WIFEは、グースベリー女房を意味するグースベリーの果実の番人で、巨大毛虫形をした妖精だ。――私見:『不思議の国のアリス』に登場する芋虫はここからきているのだろうか?
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引用・参考文献
ポール・ジョンソン 著 『リトル・ピープル』 藤田優里子 訳 創元社2010年
ノート20150715




