資料/妖精分類・試案003 魅了系妖精 ノート20160715
妖精分類・試案003 魅了系妖精 ノート20160715
(前回のつづき)
スコットランドのWAG-AT-TH-WA’ (ワグ・アト・ザ・ワ)は、鍋かけゆらしの意味だという。低地の裏道を守っている。醜い小さな老人で脚は曲がり長い尻尾がある。青いズボンに灰色の服を着て赤い外套きているが、眠るときにかぶるナイトキャップを顔の周りに巻いている。いつも歯痛に悩まされていること、強い酒を好まないという個性がある。――※私見:尻尾というところでここに分類した。
チャンネル諸島のPOUQUESはイングランドのパックに相当。パースニップの花でいっぱいの手押し車を弾いている。むさくるしい服を着ていて身長は低い、力がありけぶかく醜く長い腕。親切でよく働く家付き妖精だ。牛乳が好きだが沢山供え物をすると怒って消えてしまう。女の妖精は亜麻の布を織ってくれる。
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その4 魅了系妖精
アイルランドのLESIDHEは、美しく魅惑的な妖精の女主人、あるいはヴァンパイア系の女性の妖精だ。若者を魅了し恋人にする。恋人に選ばれた男性は超人化し、学芸では詩や音楽に素晴らしいインスピレーションが泉のように湧きだし、戦士として戦場にでれば抜群の武勲をあげることも可能だ。しかし恋人になると人間界では寿命を縮めてしまう。――※私見:日本でいうなら雪女・九尾狐の類である。精霊と人間の恋は悲恋である。
GANCANGHは滅多に見られない色男のエルフで黒い瞳のもち主。カイルランドのクレイ・パイプをくわえて揺らしてはいるが煙は吸い込まない。妖精は煙を嫌うので、煙草を吸う仕草は妖精であることを誤魔化すための演技にほかならない。そして人気がないところで若い娘が通りかかるやふらりと現れ口説いてきて夢中にさせてしまう。一夜を共にして彼が消え去ると恋焦がれた娘は死んでしまうのだという。――※私見:『ムーミン』の登場人物スナプキンの格好をしたカザノバだ。
このGANCANGHには海洋バージョンがある。つぎのセルキーだ。
水の妖精WATER FAERYは水のニンフともいいマーピープルと同義である。セイレーンやローレライの類で、若い男性を水辺に引きずり込んで魂を奪う。
スコットランド、オークニー諸島に現れるセルキーは(SELKIES)、マーピープル(人魚)に似た海棲妖精といわれているが少し毛色が違う。実は、アザラシ革の服を着ていて、脱ぐとふつうの人間の美男美女になる。海岸でよく踊る。人間界で暮らす者もいる。魅了能力があり、結婚を切りだされると拒めない。――※私見:海の男たちのユーモアで実質的にはマーピープルというよりも海洋性エルフだろう。
マン島、アウターヘブリディーズ諸島GLASHTINは、正体不明だがゴブリンだろうといわれている。ハンサムな男に化けて若い娘の前に現れ催眠術をかけ入水自殺させ貪り食べる。
さて。
マーピープルだ。
人魚・半魚人ら海棲人をまとめてマーピープルと呼ぶ。女がMERMAIDSマーメイドで、男がマーマンだ。女のメローは水掻きの付いた手指をもち美麗である。男のメローには緑色の神と緑色の葉に赤い鼻、豚のような目、ヒレのような短い腕がある。
スコットランド、イングランド、アイルランドの沖合いに出没する。スコットランドのそれはマイジャン・ナ・トゥナイとも、MAIGHEAN MARAとも呼ばれる。また、アイルランドのそれはMERROW、モルアー、ムルグッハとも呼ばれる。コンウォールや仏ブルターニュのMAL-DE-MERは、フランス語で「海の悪魔」、または「海の病魔」を意味し、夜に輝く光で船を照らす。水夫たちを安全な港へ向わっていると思わせ、岩礁に誘導して船を沈め死んだ水夫たちの魂を集める。
マーメイドは、胴体は人間腰から下は魚の人魚だ。ときに溺れた人間を助けたり、安全に船を導いたりする。海中の岩の上で勝網をのぞきこんで長い髪を櫛でとかしながら甘い歌声で歌う。男性を誘惑し結婚するがそうすると魂を吸い取られる。スコットランドのブルーマン(青い亡霊)は船に岩を投げつけたり嵐を引き越したりする人間に非友好的なメリーメイド、マーワイフ、マーウーマンの異称をもった人魚だ。しかし彼らを混乱させる詩を唱えると退散する。――※私見:ヴァンパイアであるリャノンシーの海洋バージョンだ。
一方、マーマンは緑の髪の醜い妖精で嵐や干満の潮の流れを引き起こし、人間を溺れさせて貪り食いさらに魂まで盗む邪悪さがある。人間の女性とは結婚しない。自分の子を食べる。――※私見:(マーメイドから子を奪って貪り食うあたりは、まったく違う種族であるとみていい。クトルー神話の「インスマスの影」にでてくる外見は半魚人そのものだ!――※私見:半魚人マーマンが、魅了系とはとても言い難いのだけれども、マーピープルのくくりでここに収めることにした。
ウェールズのWATER LEAPERは、水を跳ね渡る者を意味し、脚の代わりに蝙蝠の羽と』尻尾のある小さなヒキガエルみたいな格好。漁師や羊を溺れさせて食べる邪妖精だ。――※私見:淡水棲の半漁人マーマンというところか。日本の河童に類似した外見だ。
スコットランド、アイルランドの水の妖精FUATHは黄色の体毛で覆われていて、たてがみつきもあり、足指には水掻きと尻尾。目は大きいが鼻はない。緑色の衣服を着ている人型でたいていは邪悪だ。ときに人間を配偶者とする。太陽の光を嫌い冷たい鋼鉄によって死に至る。――※私見:服を着て人間を配偶者としているあたり、ウォーター・リーパーよりも知能がありそうだが、淡水棲マーマンと判断した。
スコットランドのKELPIESは、小さくて丸い、姿を変える水の妖精で、たいてい灰色の馬の姿で現れ人間に背に乗れと誘う。そして水辺に飛び込んで溺れさせ餌にする。シェットランド諸島、オークニー諸島のナッギー、アイルランドのウシュク、コンウォールのショーニー、のケフィル・ドゥールと同じものだ。――※私見:海棲・淡水性マーマン。
ルイス島のSHONEYは、ケルビーの一種。愚かで怒りっぽく醜い。島ではビールが醸造されるが、そのビールを供えると、大量の魚と畑を肥沃にする海藻をもたらす。――※クトゥルー神話「インスマスの影」にでてくるマーマンは町の人間に豊漁を約束するのと引き換えに混血し、インスマス市を乗っ取ってしまった。
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引用・参考文献
ポール・ジョンソン 著 『リトル・ピープル』 藤田優里子 訳 創元社2010年
ノート20150715




