読書/デュ・モーリア 「林檎の木」 ノート20160809
読書/デュ・モーリア 「林檎の木」 ノート20160809
デュ・モーリア「林檎の木」は400字詰原稿用紙100枚強からなる作品。
メイドを雇うような中流の上、あるいは上流階級・富裕層にあたる主人公には25年連れ添った奥方がいた。文句ひとついわず尽くしてくれるのだが、無言のプレッシャーをかけてくる感じがしてならなかった。とかく自分の存在をアピールしたくて世話焼き女房的な頑固な一面があり、主人公を苛立たせる。主人公は、戦時中、農園を手伝いにきてくれた美少女と浮気したことがあった。その場を奥方におさえられたのだが、文句をいわない。そんな奥方が作品冒頭で亡くなった。
庭に朽ちかけた林檎の木があって、不自然にいかにも主人公にみてくれといわんばかりに花が咲く。林檎の実は主人公にとって腐った味、メイドがジャムにしても同じ、庭師が枝払いをして暖炉にくべれば悪臭以外のなにものでもなく感じてしまう。奥方に可愛がってもらっていたメイドはそんな主人公に嫌気がさして暇をとらせて欲しいといってきた。
――物語を途中まで読んでいて、木の根元には昔、主人公が浮気した美少女が埋まっていたのでは? とも考えたのだが、終盤、地域の人との会話から、婚約して故郷に帰る直前に事故死したと告げられ、その憶測は否定される。
主人公は雪のある日、ついに、林檎の木を切り倒す。しかし脚がもつれて動かなくなってしまう。雪が降り積もってきて死を予感して悲鳴をあげる主人公。その唇に切株の枝がそっと口づけするように触れてきた。
――著者のブラック・ユーモアじみたホラーともいえるのだが、もともと被害妄想ぎみの主人公が醜く果てる瞬間の走馬灯と受け取ることができる。
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バズ……田舎屋敷に住む富裕層の主人公。
ミッジ……25年惰性で連れ添ったバズの夫人。作品冒頭からインフルエンザで死亡。
ウィリス……庭師。
メイド。
メイ……美少女。主人公の浮気相手。戦時中に事故死。




