読書/デュ・モーリア 「恋人」 ノート20160728
デュ・モーリア 「恋人」 感想文 ノート20160728
作品分量は400字詰め原稿用紙換算50ページ強となる短編サスペンスだ。
述者「僕」は第二次世界大戦に従軍はしたが、電気技術係なので直接銃火を交えたというわけではない。戦後、除隊・帰国して、ヘイヴァーストック・ヒルのふもとの自動車修理工場で働くようになった。父親はすでに亡く、仕事場まで半日かかるので、工場近くのトンプソン老夫婦の家に下宿するようになった。すこぶる好青年で家族、職場、下宿先でも宜しくやっていた。
下宿先の夫妻が嫁いだ娘のところに遊びに行った日の仕事帰り、手持無沙汰だったのでに映画館にゆく。ちょっと変わった娘で、美人なのだが、感情がどこかズレたところがあり、殺人場面の映画ではナイフの持ち方が真に迫っていないといった。受付嬢がいたのでデートに誘う。娘は、「戦時中は空軍にいたの?」ときいてきたので、電機技術係だったと答えた。
少し遠出したデートの帰り。バスで彼女は空軍兵士をみつめいていた。むこうもみつめ返した。バスの乗務員や常連客たちが、空軍兵をからかうように、「空軍兵は気をつけろ、ぼんやりしているとのされるぞ」といってはやしたてた。兵士は腕っぷしが強いらしく、「返り討ちにしてやるぜ」というと、「この戦争で女が身体を鍛えて男がのされるようになった。俺のところの娘なんざ、倅をブン殴って泣かしちまう」といった言葉が飛び交っていた。
「僕」はなぜ、二人がみつめあっていたのか、あるいは、むこうが自分の恋人が魅力的なのでついみとれてしまったのか。――そういうことなら名誉なことではないかと考えた。
「僕」は彼女に、あとで理由をきいてみると、「戦時中に、空軍に家を壊された」といったので、それは、「敵空軍がやったことだろう」というと、彼女は、「どっちも同じよ」と言い返した。デートのために帰宅が遅れた「僕」は気が大きくなって夜中に夫妻を叩き起こして関係が悪くなった。
日を改めて、彼女をデートにでも誘いに映画館にゆくと、別な受付嬢がいた。その娘の話だと、いつもの受付嬢がなにか事件に関わったらしく、警察署に呼ばれて戻ってこないので自分が代わりをやっているのだという。
それから職場にゆき仕事を始めると、社長が、空軍兵士ばかりを狙った連続殺人事件の話をしてきた。被害者は若い空軍兵士だ。救急車で病院に運ばれる際に亡くなった。しかしその間に証言をした。「バスでデート帰りしたらしい姿をみたのが初で、そのあと、自分を誘ってきた。一緒にいる男より自分のほうに魅力を感じたのだろう。それでいきずりの一夜を過ごそうとしたら、後ろからグサリとナイフで刺された」といってこと切れた。
しかしその晩だけは現実にむきあわぬこととしてそのままベッドに戻って甘い夢の続きをみることにした次第。
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述者……「僕」
ヒロイン……「彼女」 美人のサイコパス。
被害者……空軍兵士。三人目になる。
エキストラ……下宿のトンプソン老夫妻、職場のボス。.
ダフネ・デュ・モーリア著 『鳥――デュ・モーリア傑作選』 務台夏子 訳より 東京創元社2000年




