読書/江戸川乱歩 『押絵と旅する男』 ノート20160727
江戸川乱歩 『押絵と旅する男』 ノート20160727
400字詰め原稿用紙46枚相当からなる短編ホラー『押絵と旅する男』は江戸川乱歩により1929(昭和4)年に発表されたものである。新潮文庫2001年発売のCDで怪優・佐野史郎の朗読を聴いたのち「青空文庫」収録の本作を閲覧した。また、かつてこれをオマージュした1980年代に少年チャンピオンで連載・単行本化された古賀新一の漫画『エコエコエコアザラク』のエピソードの1つをみかけたことがある。
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01 述者が物語を述べる動機。述者「私」が魚津へ蜃気楼を見物にゆく旅行の夢をみる(あるいは現実のことかもしれない)。東京に戻る際、夕暮れの二等車列車には映画『帝都物語』にでてくる怪優・嶋田久作のような感じの洋装の老紳士がただ一人乗っており、風呂敷から押絵の額縁をだして眺めている。「私」は老紳士の魔性というか怖いものみたさというか、吸い寄せられるように彼の人のボックス席にゆき身の上話をきく羽目となった。
02 窓にあったのは押絵細工だった。モチーフは、天和2年12月28日天和の大火(1683年1月25日)に一目惚れした青年と再会したくて放火し死罪となった八百屋お七。江戸時代最大級の悲恋スーパー・ヒロインで、死後三年にして物語がつくられ、浄瑠璃、歌舞伎、落語の題材となった美少女である。その絵を五、六メートル離れたところから観るようにいわれた「私」は反対にした状態で観て叱られる。――それが伏線だ。――望遠鏡のレンズ越しに観えた美少女と抱き合うような格好になっているのは老紳士そっくりな男。老紳士にいわせると、それが兄なのだという。
03 事の起こりは老紳士の兄が25歳のとき、明治28年に建設された、東京浅草にバベルの塔のような八面体の筒型摩天楼〝凄雲閣〟最上階・12階から双眼鏡をのぞいていると、露店の並んだところの奥に、目も覚めるような美少女が現れた。若き日の老紳士と兄は、美少女に人目惚れした挙句、見世物であるカラクリ箱に収められていた押絵であったことが判った。
04 ここで冒頭伏線ででてくる双眼鏡が掛かってくる。老紳士の兄の所持していた双眼鏡というのは19世の異国の船長がつかっていたという謎めいた双眼鏡だ。兄は、それをつかって押絵の世界にゆく方法を思いつく。弟である私に双眼鏡を反対に持たせ、後ずさってゆく。するとどんどん小さくなって、押絵のなかの登場人物になってしまった。兄は異界の少女と夫婦になったのだ。
05 老紳士はカラクリ屋の老夫婦から押絵を買い取り、以降、押絵となった兄とお七の夫婦を箱根に連れ出し車窓の風景をみせているのだ。現在は富山に居住しているので今回は生まれ育った東京を見物にゆく途中なのだと語った。
06 老紳士は「私」と一緒に東京まではゆかず、名も知らぬ駅員が一人いるだけの小駅で途中下車し、「今宵は親戚の家に泊まりますのでここで失礼させて頂きます」と告げ、改札のむこうにある暗闇へと消えてゆくのであった。
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主人公……押絵と旅する男・老紳士。
準主役……主人公の兄。
述者……「私」。




