読書/江戸川乱歩 『人間椅子』 ノート20160727
『人間椅子』は、江戸川乱歩1931(昭和6)年に発表した400字詰め原稿用紙39枚相当の短編ホラー小説である。新潮文庫2001年発売のCDで怪優・佐野史郎の朗読を聴いたのち「青空文庫」所収の本作を閲読した。本作をオマージュした1956年に沼昭三が発表したSF小説『家畜人ヤプー』を1971年に石ノ森章太郎が漫画家したものを読んだことがある。
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外務省書記官の夫人・佳子は才色兼備の女流作家である。毎日のように届くファンレーターに混じって、アマチュア小説も混ざっていることがある。最初はその手の素人作品かと思うと、犯罪者からの告白文のようにも思えた。手紙の主にいわせると、自分は醜い容貌だが、家具職人としては一級で、ある犯罪を思いついた。
家具を細工して中に入れるようにして、事情をしらぬ弟子や運送屋を介して受注先であるホテルに運び込ませる。日中は椅子に潜み、夜、従業員や宿泊客が寝静まったのを見計らって金品を盗む。朝方、窃盗が明るみとなって、大騒ぎしている様子を椅子の内側で聞いてほくそ笑む。
恐々手紙を読んでいる女流作家は、さらにつづきを読む。実は同じタイプの椅子を貴女のお宅に納品しており、貴女を膝の上に抱っこして悦に浸っていたのですよ。お会いしたいのですが、ご了承しましたらハンカチを窓のところに垂れておいて下さい。伺いますので。
とあり、恐怖のどん底に陥ったところで、犯人から二通目の手紙がやってくる。――やっぱり作家志望者が自作小説を送ってよこしたのだ。そこでタイトルが『人間椅子』だと明かすわけだ。つまり素人作家がプロをストーカー・チックにかまったというオチだ。
ブラック・ユーモア的なホラーである。
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ヒロイン……佳子。官僚夫人にして女流作家。
犯人……変態家具職人。実はアマチュア作家。




