読書/大沢在昌『ザ・ジョーカー』 ノート20170427
大沢在昌『ザ・ジョーカー』感想文
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いっとき速読の訓練をしていた。表紙・帯紙・裏書の概要、目次、そんなものをながめてから、ざっくり割り付けを把握し、最初だけ読む。――ハウツウ書の読み方。資料は知りたい項目をwikiで調べ、資料を検索、図書館あるいはアマゾンで手に入れ、あとはそこを目次検索し、そこだけ読む。しかし小説は違う。佐藤優先生の速読に関する書籍を読んでいたところ、小説はわざと速く読ませないようなつくりにしてあるのだそうだ。私の読書速度は昨今の日本の小説だと四百頁につき3時間くらいかかる。ところが、司馬遼太郎先生みたいな職業作家だと、編集担当者さんがやってきて紅茶を飲んでいる間に数冊読んでしまう。
夏目漱石のころの作品だと、ラヴクラフトの『クトゥルー神話』みたいな洋書がそうであるように、紙面を蟻の群れのように、ビッシリ文字で埋め尽くす。この手のビッシリ本は読破にまる一日、あるいは数日を要する。
気になる小説はとりあえず手に入れる。小説は一日一冊前後しか読めないので、積読書は増える一方だ。今朝がた三時間読破系の小説を手にした。大沢先生の『ザ・ジョーカー』。――日本のハードボイルドものというと、この作家様の作品、ダーティーな新宿の警部補・鮫島を主人公とした、『新宿鮫』が有名だ。
『ザ・ジョーカー』は渋谷を舞台にしている。東直己先生の『探偵はBAR』にいる宜しく、BARを窓口に、ヤバイ仕事を引き受ける〝探偵〟の物語だ。裏書に主人公の決め台詞が紹介されている。
「殺しは仕事にしたことがない。殺しををしなかったとはいわないが」
ヤクザはズルズルとたかるが、ジョーカーは手付金百万、あと腐れなしで、あらゆるトラブルを解決する人物。みかけは四、五十、本人いわく七十、文体は第一人称「私」。原稿用紙換算五十枚から百枚で綴られる短編オムニパスだ。個人的にはモームのスパイ小説『アンシャンデン』のスタイルを彷彿させられた次第。
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目次
ジョーカーと当惑 7
雨とジョーカー 75
ジョーカーの後悔 123
ジョーカーと革命 189
ジョーカーとレスラー 235
ジョーカーの伝説 277
解説 新保博久 396
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裏の解決屋・ジョーカーは屋号のようなもので裏世界で襲名する。主人公は二代目。しかし世襲ではなく落語界のような感じだ。
「ジョーカーと当惑」はマッサージの店の実質的オーナーが持ち込んできたもめ事の解決。「雨とジョーカー」は、好事家の未亡人が、居候の職人と結ばれるために一芝居打とうとしてジョーカーを担ぎ出し、結局大切な人を失うという話。「ジョーカーの後悔」は死体処理業者の義理の娘に関わって大損をする話。「ジョーカーと革命」はテロリストに関わって殺されかける話。「ジョーカーとレスラー」はテキヤの親父が〝放蕩息子〟連れ戻して欲しいと依頼してきた。相続に異を唱える娘が兄のレスラーを刺客をつかって暗殺しようとした話。「ジョーカーの伝説」は、ジョーカーが解決できない問題を解決する役にセカンドという屋号があり、これはずばり殺し屋だ。そのセカンドの女がジョーカー暗殺を企むという話。
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●大沢在昌『ザ・ジョーカー』講談社2005
ノート20170427




