読書/ジムノン 『リコ兄弟』 ノート20160826
ジョルジュ・シムノン
『リコ兄弟』
秘田余四郎・訳 早川書房1956年
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著者(裏表紙より)
1903年ベルギー生まれ。31年にパリ司法警察局警視長メグレを主人公に据えた『怪盗ルトン』を発表、以後、一貫してメグレの活躍を書き続けた。代表作に『メグレ罠を張る』。89年没。
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概略(裏表紙より)
非情なギャングの世界で骨肉相喰む三兄弟。/エディ、ジノ、トニィのリコ兄弟は固い絆で結ばれていた。三人は何をするのでもつねに一緒だった。ギャングの世界に身を投じた時でさえ・だが、末弟トニィがギャング渡世から足を洗い、結婚して堅気になろうとしたとき、長兄エディは仲間の掟で弟を殺さなければならない立場に追い込まれた。しこも解決の時はすでに失われてしまったのだ。三人はそれぞれの問題に直面して身悶えする。非常なギャングの世界で骨肉相喰まねばならぬ運命に追い込まれた三人の兄弟の心理を刻銘に描きだし、読者に強烈な印象を与えずにはおかないシムノンの力作。
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登場人物
ボストン・フィル……ギャングの総ボス
シッド・キュビック……競馬・博打の総元締、フィルの相棒
エディ・リコ……『西海岸青果取引会社』の社長。フィルの乾分
ジノ・リコ……エディの弟、殺し屋、フィルの乾分
トニィ・リコ……エディの末弟。フィルの乾分
アリス・リコ……エディの妻
ノラ・リコ……トニィの妻
マイケル・ラ・モット(通称マイク)……フィルの乾分、殺し屋
アンジェロ老人……エディの忠臣
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プロット
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01 長兄エディの紹介
マイアミ市域を中心とした、闇社会。大ボス・フィル、その相棒で、賭博元締めシッドがピラミッドの頂点におり、エディが中堅幹部の地位にいることに触れる。それから、エディが三兄弟の長兄で、家長的な地位にいることを示す。亡き祖母、母親、妻、娘たち。そして次弟ジノと末弟トニィの紹介。エディ・リコの視点での家族紹介をする。次弟ジノが刺客でこの時点で一人・組織の敵対者を消したことに触れる。アンジェロ老人登場、逃げてきたチンピラを老人宅に預ける。口の堅さとエディの信用ぶりを示すエピソド。次弟ジノが、暗殺で、組織を危険にさらすヘマをやったことを暗示させる。
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02 次弟ジノの紹介
エディの父親がイタリアから移民してきてさえない労働者をしていたこと。八百屋の娘である妻との結婚。表向きは八百屋だが、ブルックリン市でのエディでの立場は小ボスというところだ。刺客をやっている次弟ジノが町に転がり込んできた。エディと次弟ジノとの愛憎。刺客であるジノと仕事をしにマイアミにゆく。ジノの描写。
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03 事件の概要
フィル・ファミリーの紹介。禁酒法時代の残党が離散集合して現在の形をつくった過去。エディたちはファミリーの古株になっていた。エディは三兄弟のなかでは最も優秀で、残り二人と違って中退せずに、15まで学校に通った。組織には兄弟三人そろって入った。結婚を機に、一地区の地盤をもらって落ち着くことを大ボスに要求し、功績から承認された。大ボスフィルが、末弟トニィーの不始末を、長兄エディに告げる。電気会社社員の妹ノラと結婚した。そのため組織から勝手に足を洗ってしまった。
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04 リコ家の構成
長兄エディが、大ボスの命でトニィーを追跡する。嫁の実家に行き、小農場をやっている父親に会う。意図せずして、ボロ車を借り、安ホテルに泊まる羽目になる。それから、祖母と母親に再会する。三兄弟の中ではもっとも優等生であった長兄を母親はもっとも信用していない。
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05 トニィーの妻
エディは、末弟を殺害、それが家族の知るところになる夢をみる。組織NO2シッドの情報をもとに、故郷NYをゆくエディ。ポーランド人・ビル。女を侍らせた偉ぶった男。イタリア料理人・ペプ、バー経営のポブ。長兄エディは、兄弟の昔の仲間たちのもとを訪れ、末弟トニィーの足取りを追う。空港から飛行機に乗る。刺客である次弟は陸路を長距離バスで移動しているらしい。末弟トニィーを消すつもりなのだ。フェリチ家に身を潜めていた末弟トニィーの妻ノラを突き止めた。
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06 末弟トニィー登場
トニィーの妻ノラの兄が、トニィーの闇家業を警察に報告。警察は事件(冒頭のジノ関連殺人事件?)の証人としてトニィーを追っていた。それを阻止するため、組織は口封じに上の兄二人を隠れ家にやったのだ。
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07 動機
長兄と末弟夫妻との対話。なんで末弟が追われる立場になったのか。自分がこの場所にきたのか。長兄エディは悪者になった感じだ。末弟は長兄の立場を察する。長兄は隠れ家をでる。
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08 刺客マイケル(マイク)の登場
組織は、三兄弟を信用していなかった。マイクは組織の黒幕的な刺客だ。エディの弟たちへの愛情を利用して、居場所を探りださせていたのだ。ドジを踏んだ次弟ジノは組織に消される前に国外に高飛びしたと伝えられる。――組織に指示されて末弟を始末するのではなく、自分を逃がすために隠密行動をとっていたのだ。――始末する役目はマイクの下にいるシドニー・ダイヤモンドという男がやる。ノラを消すと脅された末弟が炙りだされてきて、電話で長兄と最後の対話をする。
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09 収束
エディは、ホテルでくつろぎ、家族や忠臣アンジェロと会話をする。組織の重鎮マイクから、「これでよかったんだ」という電話をもらう。――描写はないが消された。組織はエディの忠誠心を試していたのだ。
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所見
リコ兄弟の長兄エディを主人公に三人称一視点としている。掟をとるか弟たちを庇うかの葛藤。組織への掟を破った弟たちは消された。直接手を下したわけではないが、末弟の隠れ家をつきとめる役をしてしまう長兄。次弟は海外に脱出した様子だが二度と日の目はみないだろう。原稿用紙300~350枚相当。




