読書/『世界の猫の民話』 ノート20160819
『世界の猫の民話』 感想文
日本民話の会・外国民話研究会・編訳
『世界の猫の民話』三弥井書店2010年
書籍には、エピソドが100ほどあるのだが、全部を示すとキリがないので、個人的に好きなものをいくつか挙げてみたい。
「恋しき天上界 ブミ(中国)」
人間は山野の草の根や木の皮を食べていた。天上神シーガはこれを憐れんで、雀につかいさせて人界に穀物の種を届けさせた。人々は農業をして穀物を食べるようになった。その様をみていた天の鼠が降臨して穀物庫を荒した。天上神は怒って猫に鼠討伐を命じた。三日で鼠を生け捕りにした猫は天上神のもとに鼠をくわえて届け、自慢げに、「捕獲いたしました!」といった途端に下界に落としてしまった。
「ドジな奴。もう一度捕まえてこい。それまで戻ってくるな!」
シュンとした猫は地上にゆき鼠を捕えたのだが、数を増やしていった。これではいつまでたっても天上には帰れない。こうして猫はいつも、頭を傾げ、手を(その傾けた頭の)下にあてて、天上をみるようになった。以来猫は、ねむるとき、手を頭の下にあて、両の目でまぶしそうに天上をみるのだ。(10―11頁 三倉智子より要約)
「猫が大事にされるわけ ブミ(中国)」
人間界にビクハラジャープという英雄神がいた。妻はヘイモザーという。麗しのヘイモザー(※仙女)を掠め取らんとした冥界神サンクジダジャープが狙っていた。英雄神が天上神に呼ばれている隙に、英雄神の妻をさらった。英雄神は世界中を捜し回っていると、冥界神の豚を飼っていた老婆がおり、さらったのが冥界神だと知って、冥界下りをした。はたして冥界の宮殿の牢獄に妻が幽閉されていた。単身忍び込んだ英雄神。妻は狂喜する。そして一計を授ける。冥界神は毎日口説きにくるのだがききいれない。
看守に冥界神の妻になりますと告げると、冥界神はいそいそとやってきた。まずは宴。杯に酒を注がせて酔わせた。泥酔したところで、潜んでいた英雄神は冥界の豚を連れてくる。冥界神は英雄神の妻だと思っていた。冥界神の胸のところには鏡があった。そこを弓矢で射て砕いてしまえば通力がつかえなくなる。英雄神が射抜いたので、もはや通力が使えない。パニックを起こした冥界神は英雄神の妻を呑みこんだ、と思ったら、冥界の豚だった。
それで英雄神は妻を取りかえした。逃げる冥界神を英雄神が追撃する。二柱は9日間、天界冥界地上界で戦った。しかしとうとう冥界神が討たれる。
だが冥界神の五体が弾け飛んだとき肉片が鼠に姿を変えた。それで人界の穀物庫を荒し回り、家を壊し、赤ん坊まで食べてしまう。人間は使者をだして神獣に討伐を訴えた。神獣は三匹の猫を代表に与えた。しかし人界に戻る途中、一頭は森で逃げ出して虎になってしまった。もう一頭は川で水を飲もうとしたとき逃げ出してカワウソになってしまった。最後の一頭をどうにか人間界に連れてきた。最後の一頭の子孫が鼠の大半を駆逐した。
ゆえに人民は猫を神使として崇め、正月や節句になると、まず猫に好物を与えた。祠堂の供物台の後ろでも猫だけは通り抜けるのを許されている。(21―25頁4行 三倉智子より要約)
「トリーネとマリー ドイツ」
「長靴をはいた猫」のヒロイン仕様。継娘のトリーネと継母の実娘マリーがおり、トリーネが夕暮れに薪拾いをさせられた。夕方になったので森の一軒家に宿を求めると人食いの夫婦の小屋だった。老夫婦を装っていた。先客がおり、狩りにきた伯爵を食い殺して、1000ドゥガーデン(帝国金貨13-17世紀流通)をせしめていた。ヒロインが食われる番になると白い猫が現れて命を助けたばかりか金貨までくれてよこした。白猫は人食いをも恐れる強力な通力を秘めておりあっさりと屈服させてしまった。その後、少女をエスコートして家に帰した。継母は一攫千金を得た継子にあやかろうと自分の家を継娘に人食いの家まで連れていかせる。傲慢な実娘は、助けようとした白猫に暴言を吐いたので怒らせてしまい、人食い夫婦が実娘を喰ってしまう。その後、白猫は熊に変身して人食い夫婦を始末した。白猫は魔法を解除した。すると人食いの巣は城となり、自身は美麗な王子となって、トリーネを妃とした。(杉本栄子より要約 71―75頁10行)
「猫伯爵マルティン オーストリア」
「長靴をはいた猫」の原型。ただし、兄弟は二人で、兄が長椅子を相続、弟マルティンが雌猫を相続した。猫は、弟に、名前を人からきかれたときは、グラーフ・マルティン・フォン・デア・カッツェ(猫伯爵マルティン)と名乗るようにいわれる。弟は老伯爵夫妻を殺害して乗っ取る。そののち兄を呼び寄せ高官にすえる。猫が老いると、弟が感謝しているかどうか確かめる。穢れた獣としてポイと野原に捨てたので弟を戒める。弟はただ恐れ入って恥じた。ほんとうに死ぬと記念碑を建てて丁寧に葬った。(星野瑞子より要約 120頁11行-124頁)
「灰色のぶち猫 イギリス(スコットランド)」
三人の王女が幸せ探しの旅にでると、空腹に襲われ、宿をもとめたところは巨人の館だ。旅の途中、ふたつあり、姉二人は罠と知りつつ妹を守るために騙されて食われてしまう。末の妹は灰色ぶち猫の館にたどりつき親切にもてなされる。翌朝、館に人はなく、礼もいえぬまま王女は旅を続けた。すると街道で葬式があり次々と貴紳の場所が通りかかり馬車に乗るように勧められるのだが、もしあなたが灰色のぶち猫なら馬車に乗るがそうでないなら駄目だといって断った。そしてついに灰色ぶち猫だという貴紳の馬車がやってきたのでそれに乗った。さる王国の王族でナンバー・2の実力者だった。王女はこの貴紳と結婚したことはいうまでもない。(岩瀬ひさみ より要約 75頁13行―78頁4行)
所見
猫についてブミ族の物語では神使としている。中東では単に鼠をとる益獣だが何らかの人格への重ねている。悪という感覚は薄い。輸入された欧州は、基本的には妖精的で、状況次第で善にも悪にもなる。悪の場合は魔女であったり使い魔だであったりする。色調について、東洋ではあまり気にしていないが、西洋では白または灰が善、黒が悪となるように思える。
また、インドでは、後宮の懐妊しない妾妃たちが猫を王女として育てているうちに人間になって隣国の王子と結婚したり、中国では貧農の男が竜王からもらった猫を嫁にすると人間になったとかいう話があって興味深かった。
東南アジアや南米では、虎や豹の兄貴分や叔母分で、狩りの仕方のすべえを教えてやるのだが、木の登り方など、猫の本領だけは教えないので絶滅をまぬがれる、知恵ものというイメージがある。
ノアの方舟では、鼠が船体をかじって浸水しかかると、乗船していたライオンがくしゃみと同時に猫に変身し、鼠を退治したという話もあった。
なお、猫は穀物庫を食い荒らす鼠を退治する農耕民族色が濃い地域は無条件に愛されるのだが、日本や西洋など、狩猟民族色の濃い森林文化では、猫は魔性色をおび、ときとして飼い主たる人間を裏切ったり試したりするとみられる節がある。
そして、同時に、通力をもつ貴族的なイメージがある。
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