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もう一度妻をおとすレシピ 第4冊  作者: 奄美剣星
Ⅰ 随筆
17/100

随筆/遺跡発見率九割の男 「のぼう様」 ノート20140714

    遺跡発見率九割の男「のぼう様」


 東京湾に面した千葉県のとある町での出来事だ。

 通勤時間一時間半、渋滞つき。酷い条件での作業だった。

 そこの遺跡というのが古墳時代前期の集落跡で、竪穴住居跡が九軒、地下にあるだろう、というのだ。このとき、渡された図面では、大きさ、規模まで詳細に記されたものだった。 図面で渡されたのは、前年に教育委員会が作成した、試掘調査時のものだ。

 担当官の第一印象が、戦国時代を舞台にした映画「のぼう様」にでてくる昼行燈風な主人公のようで、茫洋とした感じの、日に焼けた背の高い青年だ。

 社長が、「そりゃきっと、つかえねえ図面だよ。ぼんやりした奴だよ」といっていた。

 試掘調査というのは、開発が行われるときに、前もって教育委員会が。重機・ユンボと若干名の作業員をつかって、遺構の分布図をつくるというものだ。

 重機での作業は、畑作で壊された表土面をどかし、住居跡などの遺構が残っていて、なおかつ肉眼で識別できる面まで、掘り下げるのだ。

 関東の場合、識別できる面といったら関東ローム層がふつうだ。その際、「しみ」があらわれる。古墳時代であれば、長方形の、いかにも人間が造った形状のものが遺構になる。……遺構確認調査の結果を踏まえて、本調査になるわけだ。

 本調査というのは、ふつうに、TVとかでやっている遺跡の発掘作業になる。

 しかし一般的に、試掘調査の図面など、ふつうは無視して作業をする。――というのは、確認した面にある「しみ」というのが、実際は遺構ではなく、畑土の残りが付着していたり、重機・ユンボのバケットでこすり付けた土だったりすることがあるからで、あてにならないことが多い。これは試掘調査者の経験が浅くて未熟であることが多いためだ。優れた試掘調査者は調査歴三十年を超える人たちだが、実際は、十年未満の者が多い。

 そういうわけで、ふだんの私は図面なんぞ無視して表土をめくり始めたものだ。……ただ、同遺跡の作業では、もう一人、若手がついていたので、彼をたてるという意向もあり、試掘を入れた場所と深さを図から計りだして、報告するのをきき、参考にした。

 するとだ、面白いように、ピタリピタリと、遺構があたってくる。表土の付着なんかじゃなくて、しっかりした竪穴住居ばかりだ。十軒でてきたが、そのうち九軒までは合っていた。

 ふつう、試掘調査では、地面をバケット幅である一メートル強の幅で、五メートルあるいは十メートル掘削する。これを試掘坑・トレンチという。深さは三十センチのときもあれば二メートルのときもある。ここの遺跡では三十センチから五十センチというところだった。

 若い担当官「のぼう様」は、試掘坑で、「しみ状」にでてきた遺構の形を確認すると、念のため、数十センチ掘り下げて本物かどうかを見極め、さらに、作業員たちをつかって、幅三十センチ前後の狭長な、サブトレンチという試掘りを入れて、東西×南北の規模まで計っていたのだ。物凄い精度だ。

 その旨を、「使えない」と言い切った社長に報告すると、首を傾げながら、教育委員会にいる彼の古い友人たちに電話した。

「ええっ、そうかい。しばらく『財団』にいてから、あの町の教育委員会に配属された若手逸材だったんだとよ!」

 ――そうそう、人はみかけで判断しちゃいけません。

     END

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