表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度妻をおとすレシピ 第4冊  作者: 奄美剣星
Ⅰ 随筆
14/100

随筆/捏造遺跡アレコレ ノート20140717

   捏造遺跡アレコレ

.

 帰省するたびに両親が、

「こないだは三十万年前の石器が発見されたっていうけど、今度は五十年前のだって」

 と目を輝かせていた。……二十世紀末に世を騒がせた、アマチュア研究者による、旧石器捏造事件である。この方の所属していた、なんとか研究所の副所長さんだ。東北大学のとんでもなくエライ先生と子弟関係があり、地道にやっている石器研究者さんの話によると、

「『彼』は腹芸を得意にした気さくな人で、名誉欲というより、そのエライ先生を喜ばせたくってやっていたみたいだ」

 ――なんとも子供じみた、愛の形!

 ゴッドハンドと呼ばれたこの方、町興しをしたい各都道府県の田舎町から招待されては、東日本一帯で「調査」しまくった。地元教育委員会は、「旧石器」が発見されると、自分がみつけたかのように、インタビューにしゃしゃりでてきて、捏造が発覚すると、「まったくう、トンデモナイ奴っすよねえ!」としらを切った。

 トリックは、古い地層にシャベルを刺して、隙間をつくって持ち上げ、中に自作の石器を突っ込むのだ。それが、大陸の系譜とは関係もない、縄文時代風の製作技法だったらしい。嘘も声高に騒ぎ積み重ねれば「真」というものだ、いつの間にか、石器系統図・編年までできてしまった。

 旧石器でも大陸の石器に通じた研究者や、地質学者たちは嘘だと気づいていたのだが、そういう声は大半の報道機関からは無視された。ただ、あまりにも調子に乗ってゴッドハンド氏は「いい仕事」をやりまくった。結果、疑問に感じた新聞社の一つが、カメラマンを藪に隠れさせ、衝撃の瞬間ってやつを、ビデオ撮影され、特ダネ記事になったというわけだ。

 法律上でいう詐欺罪にはあたらなかったが、ゴッドハンド氏は自ら指を切断して、東北の田舎町に隠棲しているとのことだ。

 彼がかかわったザザラギ遺跡。上司に勧められて、あそこの石器図録をロットリングペンで模写したものだったなあ(遠い眼)。

 まあしかし……完全な嘘というわけでもないけれど、関係者が自分の手柄を誇大報告して、そんじょそこらの「ふつうの遺跡」を、「国史跡クラスの素晴らしい遺跡」にしてしまう事例は、捏造事件の前にも後にもあった。

 世界遺産・群馬県富岡製糸場に近い信越道路線上に、切通しにする予定だった小さな尾根の上に弥生時代の環濠集落がある。この時代は内戦状態で、各ムラは集落を囲うように堀を穿った。その堀の中から大量のヤジリがみつかったので、「これこそ弥生戦争の痕跡だ!」と従事した当時の発掘調査関係者たちが騒ぎ立て、道路公団に迫って何億もの国民の血税損失をさせ、設計変更をさせたわけだ。でてきた大量のヤジリというのは、弥生時代じゃなくて、一つ前の縄文時代のものだったのだが……。トンデモナイ思い込み、勘違い、あるいは一種の詐欺だ。

 同路線を長野との県境で軽井沢に隣接したあたりは、インディアンが狼煙をあげるような奇岩が、にょきにょき、といくつも並んでいる。そこの岩山の何か所かは、自然と角材ができて谷間に落っこちている場合がある。天然に切り出し場から、角材化した岩石を拾ってきて、一メートルクラスの石棒をこしらえた工房跡がでている。「どうせ設計変更して残すなら、むしろ、こっちだろ!」とお怒りになる、関係者も多い。

 昨今、私は、とある県の遺跡調査をお手伝いしている。県教育委員会外郭団体の監督官が、見回りにきた。

「奄美さん、溝二条が平行して走っていますね。これは古代道路じゃないですか!」

「あの、遺物は中世なんですけれど」

「古代の遺制が中世まで残っていたんだ!」

「八百年もつかわれていた? 人が歩いた痕跡・硬化面がありません、根拠が弱いです。狭い範囲で、たまたま溝が二条、ここだけ平行に走っているだけですよ。それに溝間の幅は十六メートル強あって、このクラスだと、平城京・平安京の街路や畿内周辺にある街道でないと存在しません。地方じゃ、十二メートルがせいぜいです」

「現に道がここにある。根拠を捜すのが調査というものじゃないか。遺跡外の古代道路推定ラインの田畑に一メートルピンを刺しまくって硬化面を探り当てるんだ!」

 遺跡外はそれぞれ所有者がいるから、正式は許可をとる必要があるわけだが、広大な範囲の農地所有者宅を一軒一軒訪ねて挨拶してゆかねばならない。当然、そんな手間なことはやってられないから、逃げるように、内緒で刺しまくるわけだ。しかも地下の中での1メートルピンを刺しての、フィールド調査者の個人感覚など、実証といえるほどの根拠ではない。

 監督官は、中近世の井戸が沢山でてきて、同時代の大きな溝が二条だけでてきただけのこの遺跡を否が応でも、古代道路にしたいらしい。

「古代道路ってどれです?」

 監督官の部下の方達が遺跡を訪ねてこられたので、その旨のお話をしておいた。

 ――たぶん、ありふれた中世集落の区画。だがもしレアな遺跡の可能性があるとしたら、井戸や溝に大量に捨てられた遺物が高価な品であるということから、市場だったのかもしれない。茨城県で廃城寸前に描かれた江戸時代初期の城下町・市場の雰囲気にそっくりだ。……けどね、お手伝いしている身ですから、一応はモノ申しましたけれど、お上には逆らいませんよ。

 立場のある人物が解釈を誤って突っ走り、立場が弱い周囲の反論がもみ消されると、「素敵な遺跡」ができあがる。捏造とは呼ばれないのだけれども。

     END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ