表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度妻をおとすレシピ 第4冊  作者: 奄美剣星
Ⅰ 随筆
12/100

随筆/日本の鬼について ノート20140418

 荒俣宏『本朝幻想文学縁起』だったか、日本の鬼は、中国的な幽霊というイメージよりは、より生物的だという指摘があったような気がする。

 私なりに整理してみると日本の鬼は、幽霊・妖精・巨人の3タイプのイメージに分類できるのではなかろうか。

 第1の幽霊は、ふつうの幽霊だ。これは日本でというよりは中国でという感覚になる。よく「鬼籍に入る」というときの鬼のことで、香港映画『女鬼』(チャイーニーズ・ゴースト・ストーリー)のイメージだ。特に悪霊というほどのことはなく、人間の若者と恋に陥って『ロミオとジュリエット』ばりに現世と異界の障壁に悩んだりもする。

 第2の妖精は、滅ぼされた氏族で、「百鬼夜行」的な大群をなす鬼だ。古墳時代・吉備津彦将軍が、地方政権・吉備ノ国(岡山県)へ遠征し彼の地の氏族・原住民を大虐殺して取り潰す。虐殺された民衆の霊が悪霊軍団と化した。こういう群れをなしたタイプの鬼が、冒頭の荒俣氏が述べるところの、生物的にみえる存在というわけだ。吉備津彦は桃太郎さんのモデルとなる。

 この手の少数民族虐殺は古代世界ではどこでもあった。ユダヤ教的にいえば「悪魔の民」である。神の民「選民」は皆殺してもよいというセオリーがまかり通っていた時代のできごとだ。吉備ノ国がある中国地方は鉄の産地であり、タタラ製鉄をやっている鍛冶職人が、トンカン鎚をふるっているとき火花が飛び散ったのが目に入り、片目を潰してしまい、一つ目鬼となる、という説もある。

 邪妖精の国が鬼が島だ。

 なんとなく欧州でいうところのケルト神話に近い。ケルト族が原始の欧州になだれ込んで敵対氏族と交戦して皆殺しにする。そういう氏族は、妖精の国にゆきました、という扱いになる。ケルト族に友好的な妖精はエルフ(シルフィー)、敵対しているのはオークル(オーガ)、コーボルト(ゴブリン)だ。

 第3の巨人は、歴史的なヒーロー、ものすごい神通力をもった存在の怨霊・邪神・祟り神あるいは、朝廷が懐柔して取り込んだ原住民たちのあがめていた神様だ。

 前者は、天神様こと菅原道真のように位人臣を極めながら政敵の陰謀で九州に左遷され、失意のうちに亡くなり、自分を貶めた連中を祟り殺し回る雷神だ。あるいは、関東に独立国を建国すべく叛乱を起こした平将門が、朝廷側傭兵軍団の奇襲を受けて戦死し、祟り神となる。こういう強力な邪神は、そののち、高僧の調伏を受けて天満宮や将門神社に祭られて守護神となるわけだが。

 反逆の英雄・将門公は、中近世において被差別民たちに崇拝された。このあたりは、ギリシャ神話でいうところの、巨人族(ティターンあるいはタイターン)出自のプロメテウスが、弱い人間を豊かにしてやりたくて、神々の専売特許だった火の使い方を人間に教えて粛清されたという内容のために、古代ギリシャ・ローマの奴隷たちから崇拝を受けるのに類似している。

 後者は、常陸ノ国(茨城県)『常陸風土記』にいうダイダラボッチや、陸奥・出羽ノ国(東北地方)の伝承にあるアラハバキで、特に人民に悪事を働くこともなく、人間とは関係なく大量に貝を食べたり、森の動物たちを管理したりしている東国の神様たちだ。とてもマイペースな自然神なので、土地の人間は怒らせないようにお祈りをしながら顔色をうかがって、生きのるに必要な分だけ狩猟・漁労をし、ささやかにおこぼれを頂戴するのだ。

 東国の神々は邪神扱いはされず、出羽三山の神々を挙げるように、朝廷から一位・二位といった、けっこうな位階をもらって優遇されている。古墳時代に大陸から日本に輸入された馬は、奈良・平安時代になると牧場に適した東国で飼育され、原住民は騎馬民族化する。朝廷側は、東国の民を無意味に怒らせず、懐柔して服属化させる政略の一環で、自分たちの神話体系に土着の神々を取り込んだ。英国に上陸した海賊系のノルマン朝が、先住民アングロサクソンを仲間に取り込むときのサクセスに少し類似している。上手い!

   END


     ノート2014.04.18

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ