第一章~一曲目【その男、牛丼を食らう】~
「いらっしゃいませー!」
国道沿いに建っている、赤色を基調とした一軒の牛丼屋。そこに、一人の青年が入っていった。青年は牛丼屋に入ると、レジの隣のカウンター席に腰を下ろした。
「ご注文はお決まりですか?」
近寄ってきた店員が、青年の前に水を置いた。青年はおしぼりで顔を拭きながら、メニューを開いた。数刻、青年は迷ったが、メニューの中の絵を一つ指差した。
「じゃあ、この、チーズ牛丼で」
「かしこまりました」
店員は一礼をして、奥へと姿を消した。青年――真島宏隆は、レジの前に置いてあったフリーペーパーを手に取り、ペラペラとめくり始める。時給のいいやつは……と。コンビニ、電子部品の組み立て、運送業。きりがないほど、アルバイトの求人は顔を覗かせていた。
水を一杯、飲み干す。宏隆はそれらの求人をあざ笑うかのように、次のページの求人へ、次のページの求人へと目線を飛ばしていく。どれも同じようにしか見えないな……。思わずため息をこぼす。宏隆はあごに手をやり、フリーペーパーのページをめくり続ける。
その時だった。
滋賀県ローカルアイドルアシスタントプロデューサー募集。
そんな文字が宏隆の目に入ってきた。ぱたりとページをめくるのを止める。宏隆はその項目に目を通し始めた。
このたび、滋賀県にローカルアイドルが誕生することとなりました。しかし、人手が足りていないのが現状です。そこで、アシスタントプロデューサーを募集しています。主な仕事はプロデューサーの補佐です。学歴、経歴は問いません。給与は仕事ぶりや、ローカルアイドルの売れ行き次第です!やる気のある方、一度挑戦してみませんか?
そんな紹介文がつらつらと書かれていた。給与は仕事ぶり、ローカルアイドルの売れ行き次第……か。宏隆はふっと、笑みを浮かべた。面白いじゃんか。アイドルには興味ないが、給与は出来次第ってことだろ。それに……今までやったことのない仕事だ。
「お待たせしました、チーズ牛丼です」
宏隆は箸をとると、チーズ牛丼にかぶりついた。