第八話 月曜日
月曜日。
ついに朝が来てしまった。
ずっと彼女の行方を捜していた。
しかし、一向に見つからない。僕の気持ちの中で、諦めの色が滲み出ていた時、僕は近所の公園にたどり着いた。
木についていた青い葉は、残すところ数えるほどしかないことに気がついた。
僕は、一気に脱力感に襲われ、近くのベンチに座り込んだ。
気付けば、そこはワンピースの女の子と彼女に初めて出会った場所だった。
僕は鼻水をすすった。
木の葉が一枚落ちた。
その葉が風に舞う様子を見ていた僕に、誰かが声をかけてきた。
それは聞き覚えのある声だった。
いや、むしろ、捜し求めていた声と言ったほうが正しいかもしれない。
「信次君・・・?」
彼女は、暗い表情で僕を一直線に見ていた。
僕は、あまりに突然彼女が現れたことに驚き、声を詰まらせた。
そして、
「ごめん!」
「ごめんね!」
僕と彼女の声は、上手にハモった。
「え?」
彼女は、驚いた様子で僕の顔を見た。
「ごめん・・・。昨日は言いすぎた・・・。・・・じゃなくて、・・・誤解してた・・・。あんな傷つけるようなこと言って、最低なのは、俺のほうだ・・・。」
「信次君・・・。」
僕は座っていたベンチから立ち上がった。
「昨日、あのワンピースの女の子から聞いたよ、全部・・・。でも、何で・・・」
そう僕が言った時、僕の視界にワンピースの女の子の姿が入った。
僕は間もなくの別れを悟った。
「・・・・・・。・・・毎朝、電車の中で信次君を見てたの・・・。高校に入学してからずっと、いいなって・・・。でもある日、透君から付き合おうって言われて・・・。透君とは、その前に何度か話したこともあったし、優しい人だと思ってたから、断る言葉が見つからなくて・・・。・・・そしたら、信次君が透君の友だちだったから、びっくりした。」
彼女が、少しはにかんだ笑顔を見せた。
「透君のことは、確かにすごい好きだったわけじゃなかった・・・。でも、一緒にいて楽しかった・・・。でも、透君の近くで時々見かける信次君のことを、気付いたら目で追ってて・・・。私、こんなんじゃ、透君に失礼だって思ったの・・・。だから、別れようって・・・・・・。」
彼女は、ややうつむき加減で話していた。
「その後、私、信次君に気持ちを伝えようって、決意したの・・・。でも、そのすぐ後に事故にあって・・・。」
ワンピースの女の子が、彼女の背後に近づいてきた。
「里歌さん、・・・・・・そろそろ時間です・・・・・・。」
彼女は、ハッとした表情で後ろを振り返った。
僕は焦った。
彼女が行ってしまう。
そう思ったからだ。
「俺は・・・、キミが好きだ!」
その、少し震えた声の僕の言葉を聞いた彼女は、勢い良く僕の方を振り返った。
「本当は、伝えるべきか迷った・・・。キミとは、必ず離れなければならないことを分かってたから・・・。」
僕の方を真っ直ぐに見ている彼女の瞳が潤んでいた。
「でも・・・、・・・・・・でも、好きなんだ・・・。」
彼女は、僕の方へ駆け寄ってきた。
「ありがとう。・・・・・・、私、信次君に会えて良かった・・・。」
彼女の声は震えていた。
しかし、無情にも木の葉の最後の一枚が風に乗ってゆっくりと降下し始めた。
すると、突風のような激しい風が、彼女と僕を遮るように吹き荒れ始めた。
僕は、とっさに彼女の方に手を差し伸べた。
すると、彼女はしっかりと僕の手を握った。
「素敵な時間をありがとう!けして、忘れない!!」
僕は、風に負けないほどの声を張り上げて叫んだ。
すると、彼女の微笑みが見えたような気がした。
突風が去ったその瞬間には、もうすでに、その場に彼女とワンピースの女の子の姿はなかっ
た。
しかし、この手に残る彼女の手の感触は、まだ鮮明だった。
それは、僕がまだ高校生の頃の話で、もちろん、それ以来木村里歌の姿は見ていない。
僕はそれからしばらくの間は、大きな悲しみに押しつぶされそうな気持ちで過ごしていたが、今はそうは感じていない。
むしろ、僕は彼女に感謝しているのだ。
誰かを本当に愛する気持ちを教えてくれた、僕の掛け替えのない初恋の彼女に。
作者のJOHNEYです。ようやく、完結させることができました。ここまでお付き合い頂いた方々に、感謝の一言です。至らない点があり過ぎて、申し訳ないです・・・。今後も、どうぞよろしくお願い致します。