第七話 日曜日
日曜日。
僕は、誰かに起こされた。
それは木村里歌ではなく、ワンピースの女の子だった。
僕は、あからさまにガッカリした。
「お話しがあります。」
ワンピースの女の子は、これまでにないほど真剣な表情で言った。
僕は、ベッドから起き上がると、ワンピースの女の子の話を聞いた。
「里歌さんに、昨日の夜会いました。泣きじゃくっていて、事情を聞くのに苦労しましたが・・・。」
僕はとっさに、
「彼女にひどい事を言っちゃって・・・。俺が悪いんだ・・・。」
と言って、うつむいた。
すると、
「彼女もそう言ってました。」
ワンピースの女の子のその言葉に、僕は顔を上げた。
「自分が悪いんだって。・・・、だから、信次さんが、笑ってくれない、と・・・。」
しかし、僕はそのワンピースの女の子の言葉には、再びうつむいてしまった。
「確かに、彼女は悪いかもしれません・・・。でも、それも彼女なりの事情もありましたし、考えや気持ちもあってのことですから・・・。」
ワンピースの女の子は、真剣な表情で話を続けた。
「彼女は、叶えられる願いがあるのなら、叶えたいことがあると言って、次のように言いました。「一度も話したことのない人だけど、遠くもなく近くもない場所からいつも見ていた人がいた。好きな気持ちも伝えられないままあの世に召されることになってしまった。だから、その人と少しの時間でいいから共有したい」と。」
僕は、ゆっくりと顔を上げた。
「その願いを叶えるべく、私は里歌さんと二人でやって来ました。しかし、彼女の願いには、大きな壁がありました。彼女が面識のない人に私がコンタクトしても、彼女のことを知らないのでは、彼女と共に過ごしてくれるとは思えなかったのです・・・。だから、ウソをつきました・・・。」
「ウソ・・・?」
僕は聞き返した。
「はい・・・。里歌さんの願いを叶える手伝いをしてほしいと、その人に・・・。」
僕は息が止まるほどの驚きに襲われた。
ワンピースの女の子が言っていることが、にわかには信じられない気持ちもあった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!じゃあ、木村里歌が好きな人っていうのは・・・」
「信次さん、あなたです。」
僕はひどい胸騒ぎの中、自分の手が震えていることに気がついた。
それくらい思いがけない、驚愕の真実を、僕は受け止めきれていなかったのだろう。
そして、ワンピースの女の子は詳細を聞かせてくれた。
面識のない僕と時間を共有する手段として、生前の一番最後に付き合った透にお礼を言いたいという依頼を持ちかけることにした。
しかも、透は僕の友だちということもあって、依頼を受け入れてくれる可能性は大いにあると確信したのだ。
そして、僕はその依頼を引き受け、彼女と時間を共有するようになった。
しかし、共に過ごすにつれて、彼女の中で欲が生まれた。
僕に気持ちを伝えるということだ。
しかし、彼女はそれを正しいことだとは思っていなかった。
すでに霊魂となっている自分に、気持ちを伝えられても、僕が困るだけだと思ったからだ。
だから、彼女は僕に謝ったのだと、僕は今頃になって気がついた。
しかし、ワンピースの女の子の話が真実だとしても、僕の中には疑問もあった。
僕とは面識のないはずの彼女が、一体いつどこで僕の存在に気がついたのだろうか?
現に、僕は透と彼女が少しの間でも付き合っていたにも関わらず、彼女のことを全く知らなかった。
・・・一体何故・・・?
そして、これは疑問ではないが、僕は彼女に謝らなければならないし、伝えなければならない言葉もあった。
何が何でも、もう一度彼女に会う必要があった。
しかし、彼女に残された時間は、もう少ない。
明日の朝には完全に天に召されていくのだ。
僕は焦りと共に、胸の中に熱い何かを感じていた。
僕は無意識に部屋を飛び出して、走っていた。