第五話 金曜日
金曜日。
昨日は、最低な1日だった。
結局、僕はどうしたら彼女に幸せな時間を過ごさせてあげられるのかが、全く分からなくなってきた。
やることが、どうも裏目に出ているからだ。
きっと、彼女は僕にウンザリしているに違いない。
あんな、勢いで透を怒鳴りつけた僕だったが、何様のつもりなんだと、後から冷静になって考えてみると、自分で自分に思った。
彼女と透が、彼女の生前どのように過ごしていたかなんて知らないくせに、一丁前に偉そうなことを口走ってしまった僕。
なんて、ウザイ奴なんだろう。
僕は昨夜ベッドの中で独り、悶々とそんなことを考えていた。
昨日の帰りの道中、彼女は何ら傷ついた様子もないような素振りで僕に話しかけてきていたが、内心はどれほど傷ついているのだろうと考えると、僕はとても笑顔にはなれなかった。
そして、今日は始まった。
近所の公園の近くを通りかかると、例の木がまだ元気に青い葉をつけているのが見えた。
その近くを何気なく見回すと、ワンピースの女の子が目に付いた。
「あ、天使さんだ。」
彼女は、嬉しそうにワンピースの女の子の方へと駆け寄って行った。
僕も、それを追いかけるように、女の子のもとへと駆け寄った。
「おはようございます。里歌さん、気持ちをお話しすることはできましたか?」
ワンピースの女の子の、痛い質問が飛んだ。
しかし、彼女は照れくさそうに、
「それは、もう良いんです。私、もともと眼中に入れられてなかったみたいだから。」
少し笑いながら答えた。
ワンピースの女の子は、複雑な表情を浮かべた。
そして、
「里歌さん、残された時間は、もうわずかです。月曜日の朝には、ここを離れなければなりません。お分かりですよね・・・?」
ワンピースの女の子の表情に、心配の色が浮かんだ。
僕も、ワンピースの女の子のその言葉には、ハッとさせられた。
そう、彼女とは遅かれ早かれ離れなければならないのだ。
僕の表情は、一気に強張った。
彼女は、ワンピースの女の子の言葉には、
「分かってます。」
と、ただ一言で答えた。
学校に登校した僕だったが、またもや勉強に身の入らない状況にあった。
彼女とは、離れなければならない。
それは分かっていたことだったが、改めて言われると、ゾッとするような嫌な感じがする。
僕は、このままで良いのか?
僕は、彼女に対してこのままで良いのか?
僕は、・・・。
結局、答えの出ない質問を自分に投げ掛けているうちに、下校の時間がきてしまった。
彼女は、いつも学校について来て、僕の傍らにいつもいる。
時々、分からない問題を教えてくれたりして、頼りになる存在で、笑顔が可愛くて、強引なところもあるけど、人に優しくて。
僕は、そんな彼女が好きみたいだ。
いや、それは知ってたけど、こんなに深いとは思ってなかった。
きっと僕は、この気持ちを抱いたまま彼女と離れることになったら、後悔するような気はしていた。
それを伝えた瞬間に、彼女と過ごす時間が終わってしまう可能性だってある。
でも、・・・。
そして、下校途中、近所の公園の前に来たとき、僕は思い切って彼女に気持ちを伝えようと、彼女に声をかけた。
「あ、あ、あの、さぁ・・・。」
何とも、不自然な呼びかけだった。
すると、彼女は僕の言葉を聞く前に、何かを言う。
「・・・・・・。」
しかし丁度、風の音でかき消されてしまい、僕には聞こえなかった。
「え?ごめん!聞こえなかった。」
僕が、聞き返すと、彼女は少し暗く、少し悲しげで、少し笑い、少しはにかみ、少し照れた、複雑な表情で、僕に言う。
「ごめんね。」
僕は、え?と再び聞き返した。
何故、彼女が僕に謝っているのかが、分からなかったからだ。
すると、彼女は僕の目をみつめて、言う。
「ごめんね。私、・・・・・・信次君が好きです・・・・・・。」
僕は、唖然とした表情で、その場に張り付いたように立ち尽くしてしまった。