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『救う』

作者: ミオ
掲載日:2026/08/11

「いつまで親に食べさせてもらうつもり?」


姪の千里が働けなくなったのは、怠けているからだと、叔母の由紀は言った。


千里は何も答えられなかった。


病院では、しばらく仕事から離れるように、しっかり静養するように、そう言われていた。


朝、起き上がれない日がある。


人と話すことが怖い日がある。


何でもない言葉が胸に突き刺さり、何日も思うように動けなくなる。


けれど由紀には、それが理解できない。


「病気を言い訳にしてるだけじゃないの?」


「みんな辛くても働いてるよ?」


「働かない人間が、社会で何の役に立つの?」


千里の母親である姉は、何度も由紀に、やめてほしいと頼んだ。


「お願いだから、あの子の前では言わないでよ」


すると由紀は、呆れたようにため息をついた。


「甘やかしすぎなんだよ」


「このままだったら、千里は、本当に何もできない人間になるよ?」


「親なら、もっと厳しくしなきゃ」


そんな会話を耳にしながら、千里は、自分の存在そのものを否定されている気がしていた。


働けない。


稼げない。


役に立たない。


生きているだけで家族に迷惑をかけ続けている。


そんな考えが、少しずつ千里の中に積もっていく。


ある夜、千里は自分で自分の命を終わらせようと、大量の薬を飲んだ。


幸い、母親が異変に気づいた。


病院へ運ばれ、一命を取り留めた。


母は泣いた。


「私がちゃんと守ってあげてれば…」


それを聞いた由紀は、しばらく黙っていた。


そして、姉の肩に手を置いた。


「あなた、一人で抱え込んでるでしょう?」


姉は涙を拭いながら顔を上げた。


「……どういう意味?」


「私が入っている宗教、知ってるよね?」


由紀は優しい顔をした。


「そこには、あなたを支えてくれる人がたくさんいるから」


「今のあなたには、心の支えが必要よ」


姉は答えなかった。


最愛の娘が自分で死を選んだ。


その原因の一つの妹が、今度は私を救おうと自分が信仰している宗教の勧誘をしている。


由紀は本気だ。


姉を救ってあげられる。


そう信じている。


「一度だけでも話を聞いてみない?」


姉は由紀を見つめた。


そして、静かに言った。


「……あなたが千里に言ったこと、覚えてる?」


「もちろん覚えてるわよ」


「千里を死にたくなるまで追いつめたあなたが、どうして私を救えると思うの?」


由紀は少し眉をひそめた。


「私は千里ちゃんのためを思って言ってきたのよ」


「厳しいことを言うのも愛情でしょう?」


姉は何も言わなかった。


由紀は続けた。


「それに、あの子が死のうとしたのは、あなたが甘やかしてきたからじゃない?」


その瞬間、姉の中で何かが切れた。


「もう帰って」


「でも――」


「帰って」


由紀は納得できない顔をしながら立ち上がった。


玄関へ向かいながら、最後に振り返る。


「そんなに苦しんでるなら、なおさら心の支えが必要よ」


姉は答えなかった。


ドアが閉まった。


その向こうで、由紀はiPhoneを取り出した。


宗教仲間にメッセージを送る。


――救えるかもしれない人に会ってきました。


送信して、由紀は満足そうに笑った。


自分は人を救える。


本気でそう思っている。


由紀の言葉で、

千里の心がどれだけ壊されてきたか、

由紀が気づくことは永遠にない。

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― 新着の感想 ―
とても考えさせられる作品でした。 由紀が最後まで「自分は相手のために正しいことをしている」と信じているところが、特に怖かったです。悪意を持って傷つける人よりも、善意や正義感を疑わない人のほうが、時に…
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