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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ご勘弁ください。

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/02/14

手慰み、第数弾でございます。

ちょっぴり、梃子上げをしつつ、投稿しております。

お楽しみいただければ、幸いでございます。

 この国で、聖女を婚約者にする王子は、王位継承権を失う。

 それは納得していた。

 だが、これは納得できなかった。

「まさか、神殿ぐるみで、聖女を偽っていたとはっ」

 彼らを信じることは、もうできなかった。


 卒業パーティーの会場で、聖女と第三王子の婚約が、正式に発表される直前、当の王子が声を張り上げた。

「皆、聞いてくれっ。私は独自の調査で、本物の聖女を見つけ出したっ」

 盛装した生徒たちを見回すと、神聖な盛装をした平民の聖女と、貴族の成人した令嬢たちが、驚いて振り返っているのが見えた。

 その中の聖女を見据え、王子は続けた。

「神殿は、わが兄である王太子の婚約者を慮り、それを偽って、偽の聖女を作り上げたのだっ。それを許しては、我が国は安寧を失うというのに、浅はかなっ」

 言い切った王子を見上げて目を瞬いたのは、当の王太子の婚約者で、公爵令嬢だった。

「? 第三王子殿下? 何をおっしゃっているのでしょうか?」

 戸惑っている令嬢に、笑いかけながら首を振る。

「もう、隠す必要はありません。先の辺境での魔獣討伐の際、負傷した兵たちを秘かに癒していたという話は、耳に入っております」

「?」

 更に目を瞬いた公爵令嬢は、戸惑いながらも一言断ってから、答えた。

「あの頃は、この学園で座学にいそしんでおりました。何処からそのような話が?」

 同級生の令嬢たちが、その言葉に一斉に頷く。

 その様子に狼狽えつつ、王子は首を振った。

「そ、そんなはずはないっ。いや、あなたの事だ、授業の合間に、辺境と学園を往復……」

「何処の、化け物の話ですか」

 つい、聖女が言葉を遮ってしまったのを聞きとがめ、王子は鋭く睨んだ。

「黙れ、偽物っ。お前が辺境で、全く役目を果たしていなかったという話も、既に聞き及んでいるぞっ」

「……王子殿下。発言をお許しいただけますか?」

 落ち着いた男の声が、控えめに許可を求めた。

 見ると、辺境を守る伯爵の令息が、令嬢たちに黙礼しながら前に進み出ている。

「よ、よし、許可しよう」

 やんわりと笑う令息に押されて、王子は鷹揚に頷く。

 それに一礼してから、伯爵令息は言った。

「第三王子殿下と聖女様が、辺境へと応援に駆けつけてくださったときの事が、今回のお話に関係があるようですので、経緯を説明いたします」

 やんわりと切り出し、続けて語りだした。

「先の襲撃は、稀に見るほどの魔獣数で、我が領地の兵だけでは太刀打ちが不可能と判断し、王城へ応援を要請いたしましたところ、聖女様率いる兵を派遣していただけ、我が兵の戦意も向上し、結果犠牲も少なく退けることが出来ました」

 まずは、聖女に一礼し、それを受けて代表として聖女も一礼する。

 そして、その様子を見て、あからさまに舌打ちする王子に再び向き直った辺境伯の令息は、やんわりと続けた。

「わたくしは、聖女様の安全を確保しつつ、動向を見守っておりましたので、証言いたします。聖女様一行が到着するまで、我が兵では甚大な負傷者が出ておりました。聖女様はその様子を見るや否や、休むより先に、全ての怪我人を癒して下さいました」

 既に息のない兵たちの傷も治し、涙を流して謝罪し、弔ってくれた。

「……このような方が、偽物であるはずが、ありません」

 きっぱりと言い切った令息を睨み、王子は首を振った。

「そんなはずはないっ。こいつは、私を一度たりとも、気遣わなかったっ。それに引き換え……」

 令息から公爵令嬢に視線を移し、王子は笑いかける。

 表情が僅かに硬くなる令嬢に構わず、続けた。

「遠征から戻った公爵令嬢は、私に優しく労いの言葉をくれた。これが、聖女でなくて、何だと言うのだっ?」

「……」

「……え? 何もしなかった王子様を、何で労わないといけないの?」

 素直な聖女の問いかけだった。

 それに頷きながら、公爵令嬢が言う。

「聖女様には、労いと感謝を込めた品を、書状と共に神殿に送りましたが、受け取ってくださいましたか?」

「勿論です。有難うございました。聖騎士たちも、喜んでおりました。それに、お茶会にも招待いただきましたし」

「淑女としてのマナーを教える代わりに、平民の方々のマナーを教えていただけて、有意義な時間でしたわ」

 令嬢たちが、聖女を囲んで和気あいあいと話す中、会場は何とも言えない空気になってしまった。


 何というか、阿保か、の一言だった。

 呆れるしかないが、前々回の人生で、こんな断罪に巻き込まれて、聖女を追放にまで持ち込んだ国が、我が国だ。

 そう、前々回、だ。

 辺境伯は、二回やり直していた。

 初めの時は、この断罪の場にいなかった。

 息子共々、辺境にいたのだ。

 聖女が追放され、その気配を察した魔獣の集団が、真っ先に辺境を襲った。

 訳も分からぬまま撃退した後、王城へ報告した時に、聖女の事を知らされたのだ。

 慌てて王都に向かい、国王に謁見を申し込んだのだが、直に会えた国王は、混乱していた。

「あの阿保王子、何を血迷ったか、卒業パーティに出席していなかった、王太子の婚約者を、聖女だと断言しよったっ」

 ……蛙の子は、蛙だ。

 そう思ったのは、内緒だ。

 今は国王に落ち着いている男が王太子であった時、出来を不安視した前国王の思惑で、当時優秀だった第二王子を、聖女の婚約者に据えた話は、親世代には有名な話だった。

 当時は王太子だったから、あれで済んだという話だったのだろう。

 冷静に納得した辺境伯は、追放された聖女の行方を捜したが、遅かった。

 隣国に保護され、聖女として活躍し始めていたのだ。

 その後、本当に苦労して国の守護を続けて、気の抜けない生涯を終えた辺境伯は、すぐに巻き戻っていた。

 丁度、聖女が活躍した辺境での魔獣襲撃の、後だ。

 例の卒業パーティーは、聖女たちが王都に戻って、一月後に行われる。

 慌てて王都に向かい、会場の招待状を手に入れた。

 あのパーティーには、保護者も参加できたから、娘も連れて行ったのだが……。

 何とか、断罪を阻止したのはいいが、辺境に戻った後の聖女は、随分と力を失くしたと伝え聞いた。

 そして、僅か半年でその力が、枯れてしまった。

 結果、前の人生と変わらない、気の抜けない生涯となってしまったのだった。

 もう、やり直しようがないなと今わの際に考え、息を引き取る直前に、夢を見た。

 というか、眠っている顔面を、思いっきり柔らかい何かに踏みつけられて、我に返った。

「お前という奴はっ。犯罪者めっ」

 訳も分からず目を開けると、そこには大きな兎がいた。

 魔獣ではない。

 赤い目は魔獣よりだが、魔獣はこんなに白くない。

 だが、でかい。

 小さめの大型犬並みの兎は、赤い目を据わらせて元辺境伯を見ていた。

「オレは、隣国での聖女の扱いが不憫で、お前たちに助けを求めたんだぞっ。それなのにっ。お前の考えなしの行動のせいでっ」

「っ? 断罪を止めただけだぞ? それが、今回の枯渇に関係があるのか?」

「大ありだっ。聖女は、お前に恋煩って、病んでしまったんだっ」

 晴天の霹靂……。

 頭の中で、何故かそんな言葉が浮かんだ。

 いや、どういう意味だろう?

 改めてその意を考えていたのだが、そんな男に構わず、兎はその胸ぐらをつかんだ。

「いいか、吊り橋効果だ」

「吊り橋……?」

「あの年頃の娘は、自分の危機に現れた異性に、強く惹かれる傾向があるんだよ。だから、お前の助け舟を得て助かった聖女は、お前に惚れた」

「ンなバカなっ。私は、聖女様と同じ年頃の、双子の子供がいる身だぞっ? しかも、当時は細君もっ」

 混乱する男に、兎は全く頓着しなかった。

「いいか、もう一度やり直させてやる。今度こそ、うまくやれ」

 反論の余地は、なかった。


 ……まあ、これで、良かった、よなあ?

 保護者達が集まる場で、辺境伯は夫人とともにその断罪を見物していた。

 騒動を起こした第三王子は前の時と同じく、辺境預かりとなった。

 その代わり……後継ぎだった息子を、聖女の差し出す羽目になった。

 うん、これで、良かったんだろう。

 辺境に来た聖女に、息子は一目ぼれしていた。

 そして第三王子は、魔獣撃退の時、娘と共闘していた。

 要は、どちらも婚約者をよく見ていなかっただけだ。

 公爵令嬢は、ただの当て馬のような扱いで、それもあの獣神の不機嫌を増幅させていたのだろう。

 前々回と前回は、その場にいなかったのに王太子を含む王家に、不義を疑われつつも王室入りしたらしいから、仕方がない。

 今回はそのすべてを、解決できたとは思うが、いやはや。

 人生、何が障りになるか、分からないもんだな。


意外に、乱暴な兎です。

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