一回言ってみて!
疲れた
暑い
手も痛いし
足も重い
これを毎日…
本当に頭が下がります
尊敬もします
しますから……
「父!一回でいいから言ってみて!」
唐突に父に向けて喚き出した娘。
昼休憩を終えて、午後の作業の確認に顔を出した父はキョトンとしている。
「何を言うの〜?」
また何を言い始めたのかと
呆れた様子で収穫用のカゴを軽トラの荷台へ乗せていく父。
積み重ねておいたカゴが
ひょいひょいと消えていく。
カゴを乗せ終えるのが早いな。
もう運転席のドアの前だ。
乗られたら終わり。
早く言わないとハウスへ行ってしまう。
ここで逃してはいけない。
今日はとても疲れたのだ。
一回だけでも言ってもらわないと…
そう…嘘でもいいから…全力で!
「もう行くで〜?」
「ちょっと待って!」
「早くして〜」
娘は息を吸い込んだ。
日頃から言って欲しかった言葉。
今日は絶対に言って欲しい。
「父。一回だけでいいから…」
「うん」
「今日の仕事もうおしまーい!って元気に言ってみて!」
「はぁ〜??まだ仕事山ほどあるぞ〜?」
「分かってる!分かってるけど一回言ってみて!嘘でもいいから!」
娘の妙なお願いに苦笑いの父。
それでも引かぬ娘。
「さぁ、元気よく、どうぞ」
娘の圧に負けた父は、両手を振り上げながら言い放った。
「今日の仕事おしまーい!」
「「やったーーーー!」」
父の言葉を聞いた瞬間に、両手をあげて大喜びする娘と母。
「嬉しい〜!今日はおしまいだって〜」
「やったね〜」
「買い物行く?」
「カフェ行くのもいいね!」
キャイキャイとはしゃぐ娘と母に、そこまで喜ぶとは思っていなかった父も笑っている。
よし、たまには良いんじゃない?
このまま終わりにしてまた明日頑張れば…
「ちょっと休憩したら、向こうのハウス来てよ〜」
「「………………」」
「分かった〜?」
「「……はぁ〜い…」」
短い幸せだった。
毎日続く同じ仕事。
嫌だと思うことはあまりないけれど
それでも疲れると
たまにやめたくなる時はある。
今日がそうだったんです。
一瞬でも
嘘でも
父に無理やり言わせた言葉で
あんなに開放感を味わえるなんて。
疲れているな。
…ふふ。
「さぁて…行きますかね」
「母は韓ドラ見てから行くからね」
自由だな。
良いけどさ。




