迫り来るラジオの音
今日はハウスの中での作業です。
きゅうりは上へ上へと伸びていくので
ある程度の高さまで成長したら
つるを下ろしていきます。
『つる下ろし』
という作業です。
父が一列目
母が二列目
娘は三列目
それぞれが一列を
最初から最後まで担当して
下ろしていきます。
この時のBGMは
父の腰袋に入っている
大音量のラジオです。
3人が同時につる下ろしスタート。
新米ペーペーの娘が
1本のつるを下ろしているうちに
母は2本 父は3本と
サクサク下ろしていきます。
ヒゲ切る。
つるを下ろす。
いらない脇芽を除ける。
同じ場所に複数きゅうりが実っていたら
小さい方は除ける。
葉が多ければ1枚か2枚摘む。
次のつるへ。
この作業をずっと繰り返していきます。
父のラジオの音が
どんどん遠ざかっていく。
この一列の長さは知りませんが、
私の記憶の中で例えやすいのは
50メート走の直線コースでしょうか。
もう少し長いかもしれませんが
今、娘はようやく2メートルほど進みました。
あと、48メートル…。
ラジオの音はもう、
何を言っているのか聞き取れないです。
3人分だったハサミの音も、
自分の音しか聞こえません。
はい。
うさぎとカメのカメ状態ですね。
しかも追いつけないカメです。
それでも黙々と下ろしていくと
半分ほどまで来ました。
ここまで小一時間
あと25メートル。
父が次の列を始めています。
うっすらと聴こえるラジオの音。
そのラジオの音が
だんだん
だんだんと
迫ってきました。
「できるかね〜」
「できるよ〜遅いけど」
「ふ〜ん?」
真後ろあたりで流れるラジオの音。
父のハサミの音はしません。
「芽を除ける時は右手の指も使うのよ。小さい実に傷がつかないようにしてくれ。ほんで、こう、こうやって〜こうやって〜どんどん下ろす〜」
言い忘れていた事と、お手本タイムですね。
うまくできない娘を見兼ねたようです。
そう
うまくできないんです!
つるを下ろすのも
芽を除けるのも
何もかも全部
思ったようにいかないんです!
つるも上の方でごちゃごちゃしてますし
別のところ切りそうですし
ちょっとだけ
くそ〜って思いながら作業してました。
「父のやり方見せて」
ブスッとして聞いてしまいます。
すまない父よ。
娘はムキになっている。
「こう、こう、こうよ」
なんでそんなにサクサクと…
「分からないけど分かった」
娘のブスくれた顔を見てヘラヘラ笑い
また作業に戻った父。
今度はラジオの音が
どんどん
どんどんと
遠のいて行きます。
「……難しい」
それでもつるを下ろし続けた娘。
最後の方は母がそっと手伝ってくれました。
この時の娘は
手伝ってくれた事への感謝もありましたが
最後まで1人でやり切れなかった
という悔しさがありました。
なので何度目かのつる下ろしでは
「娘が1人でする!」
「ここは娘の列!」
と、できもしないのに
ワーワー言ってましたね。
何をムキになっていたんでしょうか。
今は、父ほどとは言いませんが
サクサクは下ろせるようになりました。
ハサミも指も上手に使えてます。
成長 成長〜。




