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贈り物を拒むナディアにリュカは「嬉しくないのですか?」と最初は不思議がっていたが、幾度と無く心底困った顔で受け取れないと言う彼女を見かねた彼は少し考えた後こう言った。
「私がこれらを贈ったのは、あなたの今の身なりでは、私に釣り合わないという理由からです。私と出かける日にはこれらを身に着けてきて貰います。いいですね、これは契約です。あなたに拒む権利はないのですよ」
そう言われてしまえば、従うしか道はない。確かに、言われるまでもなくナディアの着ていたドレスはとても貴族が着るようなものでは無かった。天下のベルナール公爵の隣を歩くには失礼極まりないものだった。リュカに恥を欠かせないためだと思えば少しは心が軽くなる。制服だと思えば良いのか、とナディアはおとなしく受け取ることにした。
「ありがたく頂戴いたします」
「よろしい。それにしても、本当に似合っています」
「あ、ありがとうございま――」
くい、とリュカの指がナディアの顎を持ち上げて、なすすべもなく向かされた先には、またオパールグリーンの瞳。そして柔らかな感触。二度目のキスも突然にナディアに降りそそぐ。シトラスのオードトワレと共に。
「可愛すぎて、我慢できません」
「こ、こう――んん」
狭い馬車の中、思わず逃れようとするナディアを隅に押しやるように迫るリュカ。顎を持ち上げた指は滑るようにナディアの頬を包み込んだ。耳の後ろをくすぐる指先に体の奥がぞくぞくっと震えるのを感じ、押しのけようと伸ばした手は、リュカの反対の手にいともたやすくはがされたかと思うとそのまま繋がれてしまった。
「はっ――ん」
苦しくて息継ぎした瞬間、リュカの舌がナディアのそれを絡めとるように伸びてきた。逃すまいと、角度を変えて繰り返されるキス。ナディアは、ただ目をぎゅっと閉じて受け止めるのが精一杯で、揺れる馬車の中、今まで感じたことのない感覚に戸惑いを感じていた。
ようやく解放され、離れていくぬくもりとシトラス。閉じていた瞳を開ければ、「よくできました」とご機嫌に見つめ返すリュカ。かぁぁっと顔が真っ赤に染まるのが自分でもわかるほど、ナディアは恥ずかしさで埋め尽くされたのだった。
「まだ食べ足りませんが、今日はこのくらいにしておきましょうか」
またしても理解不能なセリフを言い、リュカは何事もなかったかのように前に向き直る。対するナディアは、まだうまく呼吸が出来ず、馬車が停まるまでそのまま隅に背中を預けていた。ナディアは、半ば放心状態の頭の中でこう思った。
――社交界一の色男、恐るべし。