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あの後、「嫌だ降りない! まだリュカと遊ぶ!」と駄々をこねてリュカにしがみつくレオンとシャルロットを無理やり降ろしたナディアは、ぶーぶー文句をいう2人を母親に任せてリュカを救い出したのだった。もうあの2人とリュカだけにするのはやめようと心に誓った。
「レオンとシャルロットは、素直で本当に可愛いですね」
「本当に申し訳ございません、公爵さま」
「ナディア、私は怒っていませんよ。二人と遊べて楽しかったんです、本当に。兄妹がいるのもにぎやかで良いですね」
偽りの無いその言葉に、少しだけ救われる。エリート貴族のリュカを地に這わせたうえにまたがり命令するなど、考えただけでも後が恐ろしい。末代まで祟られてしまいそうだ。
「着きました」
「わぁ……すごい……」
二人は、高台に来ていた。ピクニックに、と誘ったナディアにリュカがそれなら良い場所があると連れてきてくれたのだ。少し手前で馬車を降りてから、少しだけ坂を登って着いたところは、眼下に王都全体が見渡せる山の中腹にある草原だった。リュカが運んでくれた荷物からラグを出して敷き、二人で肩を並べて座った。
「公爵さまは、よくここにいらっしゃるんですか?」
「子どもの頃、父と祖母とたまに来ていました。領地でもあるので」
(こんなところまで領地なの……)
改めてベルナール公爵家の偉大さを思い知らされた気がするが、今は、こんなに景色の綺麗な所に連れてきてもらえたことの嬉しさで一杯だった。少し目線をあげれば、見渡す限りの空。幸いにも今日は秋晴れ。空がとても高く、空気はすがすがしい。程よく涼しい風がナディアの栗色の髪をさらりと揺らしていく。
「綺麗ですね」
「えぇ、とても」
穏やかな時間と秋風が心地よく、今日早起きしたせいもあってうとうととし始めたナディア。それに気づいたリュカが、優しく頭を自分の肩にもたれかけさせた。眠りに落ちる一歩手前の夢と現実との狭間で、鼻をくすぐるのはシトラスの香り。
「いいかおり……」
眠りに落ちる直前にナディアの口からこぼれた言葉は風にさらわれて消えていった。それからナディアが目を覚ましたのは、小一時間経った頃だった。頭を優しく撫でられているような心地よさを感じて、意識が浮上。一瞬どこに居るのかわからなくなって目の前に広がった景色を見て思い出す。そうだ、ピクニックにきて……。
「起きましたか」
「わぁっ」
頭上から響いた艶のあるリュカの声に一気に目が覚める。頭を撫でられていたのは夢じゃなかったのか。ナディアが飛び起きたので、頭から離れた手はナディアの背中を優しく支えてくれた。
「も、も――んん」
ナディアの謝罪はリュカの口に塞がれてしまった。
「謝るのは、ナシです」
「え、」
「それより、今日はもてなしてくれるんですよね? そろそろお腹が空きました」
「は、はい! ただいまご用意します!」
籐でできたピクニックバスケットを広げてランチの準備をてきぱきと始めた。
「お口にあうかわかりませんが……」
「いただきます」
なんのことはない、手作りのパンに、お気に入りのお肉屋さんのハムと野菜と目玉焼きを挟んだだけのサンドウィッチだ。ナディアの母自家製のマスタードソースがアクセントのピリッとかさわやかな酸味が効いた大好きな組み合わせ。家族でのピクニックや誕生日など特別な日に作ってくれるごちそうのひとつでナディアの好物でもあった。
「……そんなに見られてると食べづらいんですが」
「あ、すみま、……じゃなくて、えっと……ごめんなさい」
「ははっ、それ意味同じです……くくく」
穴があったら入りたい。自分の馬鹿さ加減にあきれてしまう。
「ううぅ……」
「まぁ、まだごめんなさいの方がマシですね」
笑いやんだリュカは律儀にまた「いただきます」と言ってサンドウィッチを口にした。




