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そんなナディアの元にリュカから呼び出しがきたのは、ちょうど翌日のことだった。リュカの邸宅で過ごすため正装は必要ないと言われ、リュカから贈られた比較的軽装のドレスワンピースを着て迎えにきた馬車に乗り込む。馬車の中、ピクニックに誘うためのシミュレーションを頭の中で繰り返していた。
見慣れたリュカの邸宅の敷地を歩いて、中へと案内される。部屋数はどのくらいあるのだろう。数えたことはないけれど、ここにはリュカと使用人しか住んでいないというのだからなんとも驚きだ。リュカの両親は、すでに亡くなっていると父から聞いていた。リュカを産んですぐに産後の肥立ちが悪くて母親は亡くなり、父親は3年前に病気で亡くなったため21歳という若さで爵位を継いで公爵となり今に至るのだという。幼いリュカを育てた祖母も数年前に他界している。
(さみしくないのかな……)
ナディアは、リュカの心を想った。自分には、両親もいて兄妹もいて、さみしいと感じたことなど一度もなかった。もし、家族が居なかったら……と考えただけでも恐ろしい。さぞ寂しい思いをしてきたことだろう。寂しさをナディアを連れまわして紛らわしているのかもしれない。リュカの力になれるなら、出来る限りのことは応えたいと思った。
「ここは……」
「中庭でございます」
案内されたのは、中庭へと続く広間。中庭に突き出た一角は天井も壁もガラス張りとなっていて、手入れされた庭がよく見渡せた。
「ダリアが見頃でしたので、旦那様がぜひナディアさまとお花見をされたいと」
言われて再度目を向ければ、大輪の花がなんとも豪華なダリアがあちこちに咲いている。ピンクや白、赤、オレンジ、ブルーとそれは見事だった。使用人に促されガラスの間のソファに腰を掛ける。
「綺麗ですね」
「奥様のお好きな花でしたので、欠かさず手入れをしてまいりました」
リュカの母親のことだろうとすぐにわかった。使用人のその物言いで、とても慕われていたことが見て取れる。
「素敵な方だったんですね」
「えぇ、それはもう。旦那様のように美しく、聡明なお方でした」
リュカの美しさは母親似だったのか、とリュカの話が聞けて嬉しくなった。もっと聞いてみたいと思ったが、使用人はお茶の用意をと部屋を出て行ってしまった。
「ナディア、お待たせしてすみません」
「いいえ、待ってなどおりませんので、そんなに慌てなくて大丈夫です」
リュカは息を切らしてソファまで小走りにかけてきた。ナディアは、ソファから立ち上がり、リュカにお辞儀をする。
「すみません、遅くなりました。ナディアに会うと思うと何を着ようか迷ってしまって」
「そんな、私ごときに気をつかって下さらなくても、公爵さまは何をお召しになってもとても素敵ですよ」
まるで乙女のようなリュカのセリフに笑みがこぼれる。くすくすと朗らかに笑うナディアを、リュカはなんの前触れもなく引き寄せて抱きしめた。
「こ、公爵さま? どうしたのですか」




