2-5
「今日は疲れたでしょう。突然呼び出してすみませんでした、ナディ。食事を用意させたので、お腹いっぱい食べていってください」
馬車を降りて案内された場所は、今度こそ正真正銘リュカの屋敷だった。食堂に入ると、テーブルいっぱいに色とりどりの食事が並べられていた。ナディアにとってまさに天国とも言える光景に思わず感激の声が漏れる。
「今日一番の表情ですね、ナディ」
「もっ、申し訳ありません!」
くすくすと笑いながら、リュカは「良いのですよ。さぁ、食べましょうか」とナディアを席に座らせてくれた。
「い、いただきます」
背に腹は代えられないとはこのことだ。よだれがでるのを必死に抑えながらナディアはごちそうを少しずつ口に運ぶ。どれを食べてもほっぺがとろけそうなくらい美味しい。
「とても美味しいです」
「それは良かった。うちのシェフは精鋭ぞろいですから」
幸せに浸るのもつかの間、可愛い弟と妹、大好きな両親の事が浮かんできてナディアは急に罪悪感にかられ手に持っていたフォークを置いた。自分だけこんな贅沢をしてることが後ろめたいのと、この場に彼らが居たならどんなに幸せだろうと思うと、食事が進まなくなってしまったのだ。
「ナディ、どうしました。もうお腹いっぱいですか?」
「あ、えっと……その……」
「あぁ、私としたことが、すっかり忘れてました。久しぶりの来客にシェフが張り切りすぎて作りすぎてしまったので、これと同じだけの料理をリシャール伯爵の屋敷にも届けておきました。ナディは何も気にすることなく思う存分召し上がれ」
「えっ」
「実は、心の声が聞こえるんです」
驚きすぎて、言葉も出ないで目を見開くナディアをリュカはくすくすと笑いながら見つめていた。いたずらっ子みたいに笑うリュカを見て、からかわれたのだと気づいたナディアは、また顔が熱くなっていく。それにしても、リュカのその観察眼には驚かされっぱなしだった。ナディアの考えることなんて、手に取るようにお見通しなんだろう。
「公爵さま、本当に何から何まで感謝いたします。私はどうお礼をしたら良いのでしょうか」
「お礼なんて、良いんですよ。私がしたくてやっていることです」
「あの、どうして公爵さまのようなお方が、私のような者を恋人役にする必要があるのでしょうか?」
それは、どうしても腑に落ちない疑問だった。リュカのように地位も名誉もあって、容姿端麗な文句の付け所のない人が、わざわざ自分のような「訳アリ」をお金を払ってまで雇わなくとも、どこぞの高貴なご令嬢がわんさか寄ってくるに違いないのだ。
ナディアの質問に、リュカは「そうですね……」と考えてから話し出した。