4.黄金色のひとさじ (前編)
あまりに長いので前編と後編で分けさせていただきました。
朝の鐘が七つ鳴る少し前…まだ太陽が昇りきる前、リトは指定された門の前にいた。
ギルドで渡された地図を握りしめながら、何度も確認して…1時間半迷いに迷ってきた場所だ。
石造りの大きな門は重々しく、けれどどこか洗練されていて、門番の鎧もきらりと磨かれていた。
「すごいや…本当に、お城みたいだ…!」
リトの声は、喉の奥で小さく震えていた。
そして門番にギルドカードを提示すると、ボディチェックをされた後、驚くほどスムーズに通された。
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「まずは、こちらでお風呂と身支度をお願いします」
出迎えたのは、制服姿の若い侍女だった。
にこやかに案内された先は、屋敷の裏手にある小さな離れ。
そこには湯が張られた浴室と、見慣れない白いシャツと黒いズボン、きちんとしたエプロンが用意されていた。
「こ、ここで着替えるんですか?」
「はい。すでにお給料は発生していますので、どうぞご安心を」
リトは目を瞬かせた。
ギルドの依頼は、たいてい“働いた分だけ”が給料になる。
けれどここは違った。——身支度の時間まで、ちゃんと“働き”とみなしてくれている。
「……すごいや、公爵家って……!」
小さく呟いたその声は、湯気に吸い込まれるように消えていった。
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身支度を終えたリトは、案内された通路を抜けて、厨房の扉の前で立ち止まった。
「開けたら、驚かないようにしてくださいね?」
先導していた侍女が、意味深な笑みを浮かべながら言う。
その手で扉が押し開かれた瞬間——
「鍋の確認、あと三分!」「ソース、あと一手間!火、落とすな!!」
「次、根菜入ります!すぐ皮むき、並んで!!」
——熱気と怒号が一斉に押し寄せた。
厨房の中は、まさに“戦場”だった。
そこかしこで鍋がぐつぐつと煮え、無数の鍋蓋が跳ね、火と蒸気と香辛料の匂いが混ざり合う。
大勢の料理人たちが、流れるような手つきで食材を切り、混ぜ、焼き、盛りつけている。
「う、わぁ……」
思わず足がすくむ。
だが、その場にいた誰一人としてリトを無視しなかった。
「新入りか? 来い」
声をかけてきたのは、長い前掛けを巻いた年配の男。
分厚い手をしたその人は、リトの肩を軽く叩いて言った。
「皿洗いからでいい。初めてでも大丈夫だ。手順は教える。いいか、見て盗むな、聞け、覚えろ、手を動かせ。」
「はいっ、よろしくお願いします!」
リトはぎゅっと拳を握ると、まっすぐにその人を見上げて頷いた。




