2.3枚に釣り合う価値を
問題は、材料だった。
パンなら、なんとかなったはずだ。
けれど——砂糖は、ない。
リトの家には、お金がなかった。
砂糖なんて高級品どころか、“甘いもの”というもの自体が、一つも置いてなかった。
掲示板の前で、何日も、何時間も。
「なんとかなるはずだ」と言い聞かせながら、かじりつくように、依頼の札を見つめていた。
そんなある日——
「リトくん、良い依頼があるよ」
いつものギルドの受付で、朗らかな声が呼んだ。
にっこり笑う、丸顔の受付のおばちゃんだった。
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【緊急依頼】
依頼名:製菓店のアルバイト
内容:製菓店で1日働く。厨房作業中心。
推奨ランク:なし
条件:料理系スキル持ち、または調理に心得のある人
最低報酬:銀貨1枚
追加報酬:店主の判断
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【通常依頼】
依頼名:公爵家主催パーティの調理補助
内容:2日後に行われる公爵家主催の立食式パーティの調理補助。
推奨ランク:なし
条件:調理に心得のある人
歓迎:女性または15歳以下の男子
最低報酬:大銀貨1枚
追加報酬:未定
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「…どちらも受けます!!明日朝から製菓店に、明後日は調理補助に行きます!!」
依頼の手続きをするギルドカードにはFランクの文字。まだ最低ランクだ。
それでも今は依頼が受けられるということ自体が嬉しく、Fの字すら誇らしく思える。
手続き後のカードをお礼とワクワクと共に乱暴に受け取った後、他所様のお店に行くからという理由で大銅貨を握りしめ、銭湯に向かう。
たった一日のバイトに、人生で二度とないかもしれない公爵家の厨房。
そして何より——甘さの価値を手に入れる、その可能性。
Fランクの少年は、少しだけ誇らしく胸を張って、湯の暖簾をくぐるのだった。