表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Astrolibra (アストロリブラ)  作者: 夢想の月
3.有翼の詩人の詩
26/26

3.夜明けを願いながら。

懺悔:投稿ボタン押し忘れていました。昨日分です。

王都の街並みが、遠ざかっていく。

レンガの屋根も、整った石畳も、やがて色を失って風景に溶けていった。


ノーラはひとつだけ後ろを振り返る。

朝焼けに染まる王都のシルエットは、まるで誰かの思い出みたいに、ぼんやりと霞んで見えた。


「……よしっ、行こうか」


彼女は小さく呟いて、背中に意識を集中する。

淡い光が、肩のあたりから粒子のように舞い上がった。


氷に光を閉じ込めたような、透き通る翼が、静かに展開する。

それはまるで、朝の空に咲く一輪の花のように、儚く美しかった。


ばさり、と羽ばたいて、ノーラの体がふわりと地面を離れる。

空気を裂いて、風が肌を撫でていく。

胸の奥にあった小さなざわめきも、青空の広さに包まれていくようだった。


空を行くのは、自由だった。

地を這うよりもずっと早く、そして、ずっと遠くまで行ける。


雲の隙間を抜け、風を読み、太陽の光に翼をさらす。

人の足なら数日はかかる旅も、ノーラにとっては “少し頑張れば一日で着く”距離だ。


けれど――


彼女の視界の先、北の地平線に、妙な白があった。


最初はただの雪雲だと思った。

でも、近づくにつれて、それが“ただの天気”じゃないと分かってくる。


「……吹雪?」


白の帯は、まるで空を断ち切るように広がっていた。

不自然なくらい明瞭な境界線。

まるで、誰かがそこに “壁” を作ったみたいに、きっぱりと分かれている。


風の流れもおかしい。

そこだけ重く、冷たく、刺すように鋭い。

翼の端が、思わず震えた。


ノーラは羽ばたきをやめて、空中で旋回する。

何度も風を読み、光の角度を確かめたけど、答えは同じだった。


「……あれは、入っちゃいけない」


理屈じゃない。

魔力が拒まれているわけじゃない。けれど、“感覚”がそう告げてくる。


危険だ。

あれは、空を裂く何かだ。


ほんのわずかだけ背中の羽が震えた。

けれど、ノーラは怖がってはいなかった。

ただ、慎重に、確かめているだけ。


「今日のうちに突っ込むのは、やめとこっか」


そう呟いて、翼を畳む。

魔力の光が消え、身体がゆっくりと降下を始める。


──地を歩く。

それは彼女にとって、“自由を封じる”ということだった。

けれどそれでも、無理には飛ばない。


風が拒むなら、風と争わない。


それが、彼女の旅のやり方だった。


林のそば、小さな岩陰に布を張って、野営の準備を整える。

魔道ランプの明かりを頼りに、じゃがいも入りのスープを火にかける。

湯気が立ち上るのを見て、ふっと息を吐いた。


「……ちゃんと、詩を見つけなきゃな」


あの魔女に届ける、自分だけの詩を。

そのために、自分はここにいる。


目を上げると、空には満天の星。

けれど、北の空だけは“何も見えない”。


(……やっぱり、“ただの雪”じゃないんだ)


ギターを膝に置き、弦を軽くひと撫でする。

静かで澄んだ音色が、凍った夜気に吸い込まれていく。

野営用の布はすぐに凍りついてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ