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6.謁見の短剣
短いので本日は数話更新です。
イサームは、焦げた瓶詰めを懐にしまうと、一本の短剣を取り出した。
この短剣を持ってきた時点で、無事に帰るつもりなど毛頭なかった。
それは使うべきではなかった。
だが、イサームの覚悟はとうに定まっていた。
銀色の鞘から抜かれたそれは、“ディア・ノートゥス”――謁見の短剣。
一族につき三度だけ、神々の領域への干渉を許された、最後の選択肢。
それは対話の刃ではない。交渉の刃でもない。
己を捧げ、神の地へと自身を投げ込むための、儀式の刃。
代償は、四肢の一部、あるいは命。
イサームは短剣を逆手に握りしめ、自らの左肩へと深く突き立てた。
――その瞬間、世界が裏返った。
落ちたのは彼ではない。空間のほうだった。
時間がねじれ、重力が消える。
視界がちぎれ、音が遠のく。
存在そのものが、神の座へと引きずられていく。
喉の奥から、声にならない絶叫がこぼれた。
視界の端で、腕が千切れた。
血は、流れない。
いや、流れるより早く、宇宙の結晶が“パキパキパキ……”と音を立てて舞い落ち、裂けた断面を封じていく。
まるで、水が凍る瞬間を早送りで見せられているようだった。
そして次の瞬間――
甘く、冷たい空気に包まれた異空間へと、イサームは放り出された。




