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Astrolibra (アストロリブラ)  作者: 夢想の月
2.砂と花とおっさんの話
18/26

6.謁見の短剣

短いので本日は数話更新です。



イサームは、焦げた瓶詰めを懐にしまうと、一本の短剣を取り出した。


この短剣を持ってきた時点で、無事に帰るつもりなど毛頭なかった。


それは使うべきではなかった。

だが、イサームの覚悟はとうに定まっていた。


銀色の鞘から抜かれたそれは、“ディア・ノートゥス”――謁見の短剣。

一族につき三度だけ、神々の領域への干渉を許された、最後の選択肢。


それは対話の刃ではない。交渉の刃でもない。

己を捧げ、神の地へと自身を投げ込むための、儀式の刃。


代償は、四肢の一部、あるいは命。


イサームは短剣を逆手に握りしめ、自らの左肩へと深く突き立てた。


――その瞬間、世界が裏返った。


落ちたのは彼ではない。空間のほうだった。


時間がねじれ、重力が消える。

視界がちぎれ、音が遠のく。


存在そのものが、神の座へと引きずられていく。


喉の奥から、声にならない絶叫がこぼれた。


視界の端で、腕が千切れた。


血は、流れない。

いや、流れるより早く、宇宙の結晶が“パキパキパキ……”と音を立てて舞い落ち、裂けた断面を封じていく。

まるで、水が凍る瞬間を早送りで見せられているようだった。


そして次の瞬間――


甘く、冷たい空気に包まれた異空間へと、イサームは放り出された。

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