0.ドーナツの味は
初書きです。
のんびり更新しますので見ていただければ幸いです。
目の前のドーナツの味は、宇宙の味がするの。
――だって、これは私が作ったものだから。
まず、“どうしようもない苦味”がやってくる。
舌の奥じゃなくて、喉の奥――心のずっと奥のほうに、じんわり残るの。
そのくせ、すぐに“依存してしまいそうな甘さ”が絡みついてくるのよ。
ただの砂糖じゃない。甘いのに、苦い。安心するのに、ちょっと怖い。
一口で、ぜんぶの感情がごちゃ混ぜになっちゃうの。まるで夢みたいな味。
極めつけは、“なにも入ってないのに、ぱちぱちと弾ける”の。
ほんとうに何も入ってないはずなのに、星みたいに口の中で弾けて――
気づいた時にはもう、宇宙を食べてる感覚しか残ってないのよ。
……ね、面白いでしょ?
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ねぇ、知ってる?
一度宇宙に染まったものは、もう宇宙しか作れなくなっちゃうの。
優しさも、怒りも、悲しみも、なにもかもが“宇宙のかたち”になってしまうのよ。
たとえそれが、美味しいごはんだったとしてもね。
でもね、染まった者はやがて気づくの。
それは本当に望んでいたものじゃなかった――って。
だけど、もう戻れないの。染まってしまったから。
私はそもそも望んで染まった訳じゃないんだけどね。
だから私は、星が百と少し回ったあの日、ひとつの依頼を出したの。
「美味しいドーナツを、ここまで届けてほしい」って。
……でもね、まだ本当に“美味しかった”って思えるドーナツは、ほんの数えるほどしか来ていないのよ。
悲しいことにね。