第9話『覚醒、もう一人の私』
光の中。
ユイは静かに目を開けた。
そこは、かつて見たことのある景色だった。
夕焼けに染まる丘の上。風に揺れる草原。遠くで鳥が鳴いている。
「……ここ、知ってる。昔、よく来た場所……」
ユイが呟いたそのとき、背後から足音が近づいた。
振り返ると、そこには――もう一人の自分が立っていた。
同じ顔。
同じ髪。
だがその目は、七色すべてを宿したように、深く、透明だった。
「あなたは……私?」
「正確には、“かつてのユイ”。この記憶の中に封じられていた“本当の私”よ」
もう一人のユイは微笑みもせず、ただまっすぐに見つめてくる。
「あなたはずっと、目を背けてきた。事故の日のことを。
なぜ義眼を授かったのか、なぜ“選ばれた”のかを」
風が吹いた。空の色が変わる。
世界が、過去の映像に切り替わるように歪み始めた。
――幼いユイ。研究施設。
並べられた七つの義眼。監視装置。
そして、母親の声。
『ユイ……お願い……この目を、つけて……。あなたしか……この力を――』
血の匂い。割れるガラス。
炎と悲鳴。そして、黒い影。
ユイは両手で頭を抱えた。
「やめて……見たくない……!」
「でも見なくちゃ。これが、あなたの始まりだから」
もう一人のユイが近づき、その額に触れる。
「目を開けて。目覚めて。私は、あなたになるためにここにいた――」
その瞬間、七色の光が義眼から溢れ、ユイの身体を包んだ。
現実世界の病室。
ユイの身体が震え、義眼が七色に輝く。
「……っく……あぁあああっ!」
悲鳴と共に放たれた光は病室の壁を砕き、周囲に波動を広げた。
駆けつけたカイは、その異様な光景に目を見張った。
「ユイ……これは……!」
ベッドの上で、ユイはゆっくりと目を開けた。
その左目には――虹色の、螺旋のような光が宿っていた。
「思い出した……私……私、選ばれてたんだ。あの日からずっと」
声が震える。でも、その瞳には強さがあった。
---
次回予告:第10話『灰色の追跡者、鋼の手を持つ者』
新たな追跡者が現れる。
その義眼は“灰”。あらゆるものを制御し、無効化する力を持つ――。