第話8『青の監視者と、記憶の扉』
夜の病院。
面会時間を過ぎた静寂の中、ユイは目を覚ました。
ベッドの脇には、疲れ切った顔で眠るカイの姿。
彼の手には、焦げた手袋と、赤い義眼を隠すための眼帯。
「……守ってくれたんだね」
小さく呟き、ユイはベッドから降りた。
――夢を見た。
目の奥に焼きついた“扉”のイメージ。そこには、青い光が差していた。
ふと、病室のドアの外に誰かの気配を感じた。
「誰……?」
ドアを開けると、そこにはひとりの少女が立っていた。
青いワンピース。無表情の白い顔。
そして、左目に宿るのは、深海のような青の義眼。
「監視対象ユイ=セブンス。記録確認。現在までに赤・紫の力覚醒。黒との接触済み」
「……あなたも、義眼の継承者?」
「第3の継承者。“青の監視者”と呼ばれている」
少女の声は冷たく、まるで機械が読み上げるような調子だった。
感情という概念が存在しないかのように、淡々と事実を告げる。
「あなたの記憶。既に鍵が外れかけている。
干渉が進めば、自己崩壊の危険あり。……だから来た」
「記憶……私の、過去?」
「知りたいなら、ついてきて」
少女が手を差し出す。
その瞬間、ユイの義眼が反応した。光と共に空間が反転する。
目の前に広がるのは、白い廃墟。
その中央には、一枚の扉がぽつんと佇んでいた。錆びた金属製。誰もいない空間。
「ここは……?」
「“記憶の境界”――継承者たちの深層意識に存在する、虚構と現実の狭間。
そして、あなたが最初に“神の力”と接触した場所」
少女は淡々と告げる。
「扉の中には、失われた真実がある。けれど、開けばあなたは“選ばれる”」
「選ばれるって……何に?」
「“神の器”として。
七色を揃えたその先にあるのは、ただの力じゃない。
この世界の、書き換えだよ」
ユイは扉の前で足を止めた。
手が震える。けれど、それでも。
「……開けるよ。たとえ何があっても、自分の過去を知りたい」
ゆっくりと扉に手をかける――
そして、光が弾けた。
その奥に広がる記憶は、あまりにも残酷で、そして、懐かしかった。
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次回予告:第9話『覚醒、もう一人の私』
扉の先に待つ“もうひとりのユイ”。
彼女が見た真実とは。そして、青の監視者の本当の役目が明かされる――!