第5話『紫の記録者』
病室の天井を見上げながら、ユイは深く息をついた。
夜明け前。静けさだけが部屋を満たしていた。
あの夢は何だったのだろう。
男の声。紫色に輝く義眼。そして「選ばれた器」という言葉。
「紫……?」
何かに導かれるように、ユイはベッドの傍に置かれた義眼ケースを開けた。
七つの義眼――まだ装着していない“紫”が、かすかに脈打っているように見えた。
触れるだけで、頭の奥がチリ、と痛んだ。
だが、恐怖よりも興味が勝った。
義眼を装着する。視界が、深い闇の奥へと沈んでいく――。
気がつくと、そこは別の場所だった。
白黒のモノクローム世界。時間が止まった記憶の中。
ユイの目の前に、幼い頃の自分が立っていた。
(これって……私の記憶?)
紫の義眼は、「記憶視」と呼ばれる能力を持っていた。
義眼の持ち主自身、あるいは他者の過去に干渉し、記憶の映像を追体験する力だ。
「――ユイ、おまえは特別なんだよ」
男の声が響く。
背後に立つその男は、義眼と同じ紫の瞳を持っていた。
手には、黒いスーツケース。中には……まだ色のない義眼たちが、並んでいる。
「君の中には、“神の欠片”が宿っている。だからこそ、七つの力を制御できる。
でも、同時に君は……世界に狙われる存在でもある」
(誰……なの?)
言葉を返そうとした瞬間、景色が激しく歪んだ。
何かが記憶に干渉している。強制終了されるように、意識が現実へと引き戻される――
ガバッとユイは身体を起こした。息が荒い。
頭の奥がズキズキと痛む。だが、忘れてはいなかった。あの男。
そして、「神の欠片」という言葉。
ユイの中で、何かが目覚めようとしている。
七つの義眼は、ただの武器ではない。
それぞれに、“神の記憶”が宿っている。
そして、紫の力は、ユイの中に隠されたもう一つの真実へと、導こうとしていた。
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次回予告:第6話『黒の予兆、神殺しの影』
義眼狩りたちの真の目的が動き出す。
そして、“黒の義眼”を持つ最凶の使徒が現れる――。