第3話『黒い影と、白の眼』
第3話『黒い影と、白の眼』
夜の病院は、不気味なほど静かだった。
灯りは非常用の赤いランプのみ。無人の廊下に、機械の心音のようなブザー音だけが響いている。
ユイはベッドから抜け出し、ゆっくりと歩いていた。
青の義眼は沈黙したままだが、その奥に眠る“記憶”は、まだ頭の中でざわめいていた。
――ドクン。
何かが近づいている。
肌がひりつく。赤の義眼がわずかに反応し、視界の右端に影が現れた。
廊下の奥。
そこに、“それ”はいた。
黒いフード。口元に巻かれた包帯。
そして、右目には義眼――**真っ白に輝く“眼”**が嵌め込まれていた。
「ようやく見つけた」
声は低く、金属を引きずるような音が混じっている。
敵意は、隠していなかった。
「誰……あんたも、“義眼”の……?」
「白の眼の保持者。《探知》と《抹消》の力を持つ者。
おまえの眼――“七色の器”は、回収対象だ。従えば、痛みは少なく済む」
「ふざけないで。もう、簡単に従ったりしない」
ユイは構えた。
赤の義眼が、再び目覚める。だが――
「……あれ?」
反応が鈍い。まだ青の義眼の反動が残っているのか、体が熱を持ったまま反応しない。
「動けないのか。なら、終わりだ」
男の白の義眼が光る。
直後、空気が凍ったようにピタリと動きを止めた。ユイの体が、まるで時間ごと固定されたように動かなくなる。
「《白の制止》。対象の動きを“視線”で封じる。……便利だろう?」
男がゆっくりと近づいてくる。
手にした刃が、冷たく光ったその時――
「ユイッ、下がって!」
女の声が響いた瞬間、天井から何かが降ってきた。
黒い鉄骨――ではなく、“腕”のような巨大な義手が、男を弾き飛ばした。
「……っ、くそ、邪魔が入ったか」
男が体勢を崩す。白の義眼の光が一瞬揺らいだ。その隙に、ユイは体の自由を取り戻した。
「間に合ったわね、ユイ」
白衣の女が、背後に立っていた。
その腕には、奇妙な機械義手が装着されていた。
「こっちにも、“義眼狩り”の情報は入っていたの。まさか初手で来るとは思わなかったけど」
義眼狩り。
その言葉に、ユイの心臓が跳ねた。
「あなたの眼は、“神の欠片”の中でも特別。だから彼らは狙ってくる。
だが、彼の義眼は“白”――記録も改ざんもできる、最も危険な色」
「つまり、あいつを倒さなきゃ、私……」
「殺される前に、記憶ごと消される。そういうことよ」
男は立ち上がった。傷一つない。
白の光が、再び視界を飲み込もうとしていた。
そのとき――ユイの義眼が震えた。
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《第三色・発動条件達成》
《解放:黄の義眼》
《スキル:超加速展開中》
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ユイの周囲の空気が歪んだ。
風が逆流する。世界が、弾け飛ぶように動き始めた。
「速い――!? これは、“黄色”の……!」
彼女の姿が残像を残す。
視界の外から叩き込まれた膝蹴りが、白の男の義眼を砕いた――
(第3話・完)
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次回予告:第4話『黄色の残光、始まりの記憶』
黄色の力に目覚めたユイ。だが、新たな色はさらなる“代償”をもたらす――