第2話『義眼の目覚め』
ユイの拳が、影を裂いた。
病院の廊下に鳴り響く、鈍く重たい音。
異形の肉が砕け、壁に叩きつけられる。黒い液体が床に飛び散った。
「な、にこれ……」
拳から煙が立っていた。手の皮膚は赤く染まり、まるで焼け焦げたようだった。
だが、不思議と痛みはなかった。むしろ、体の奥から力が湧いてくる。
義眼が、また光る。
ユイの視界の隅に、奇妙な“表示”が浮かび上がった。
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**《義眼機能・赤》
属性:炎
スキル:灼撃
効果:打撃に炎属性を付与し、衝撃と焼灼効果を加える。
使用制限:連続使用は体温異常・疲労・精神負荷を招く。**
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「……ゲームのUIみたい……」
戸惑いながらも、ユイは影を見据える。
影はまだ蠢いていた。先ほどの一撃で形は崩れたものの、再び再構築を始めている。
「再生してる……」
白衣の女が、後方から声をかける。
「それは《影喰い》。この世界に満ちる“神の欠片”に引き寄せられて現れる存在よ。
あなたの義眼は、その欠片を見抜き、力に変えるの」
「ふざけないで……! 何も説明されずに、いきなり……!」
「生き残りたいなら、怒るより先に“使いこなしなさい”。」
女の声に、ユイの中で何かが弾けた。
「……やってやるわよッ!」
ユイはもう一度拳を構えた。義眼が脈打つように光る。
再生を終えた影が、牙のような手を伸ばして襲いかかる。
「灼撃ッ!!」
その声に呼応するように、ユイの拳が紅蓮に包まれた。
一撃。
それだけで、影は燃え上がった。断末魔のような叫びを上げ、床をのたうち、そして……黒い灰となって消えた。
炎の残滓が舞う病院の廊下。静寂が戻る。
ユイの呼吸が荒い。膝が震える。
「倒した……の、かな……?」
「ええ。でも、まだ序章。義眼には、あと六つの色がある。
そのすべてを使いこなす頃、あなたは“神の目”の真の意味を知ることになるわ」
白衣の女が言った。
だがユイの視線は、義眼に浮かぶ別の文字に奪われていた。
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《警告:義眼使用過多》
《体温上昇:38.7℃》
《幻覚症状の兆候》
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「……なんなのよ、これ……」
体の奥で、何かがざわついている。
炎ではない、別の“熱”。――この力には、代償がある。
(第2話・完)
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作者の赤虎です。
小説は初心者で手探りで書いています。
至らない点が多々あるとは思いますが、宜しくお願い致します(^o^ゞ
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