第18話『白き目覚め』
闇が、記録の空間を侵蝕していく。
ナンナの残滓――それは、理に反する存在。かつて神核を喰らい、世界の法則そのものを歪めた“無き者”の一端。
ユイの目の前に立ちはだかったそれは、黒く蠢く霧の塊だった。
けれど霧の中に、誰かの顔が浮かぶ。
「……あれは……私?」
それは過去のユイ――まだ何者にもなれず、ただ失い続けていた頃の彼女の“影”だった。
その目には、絶望と拒絶の光しかなかった。
「やめて……私はもう、何も見たくないの……!」
影のユイが叫ぶと、黒霧がうねり、刃のように襲いかかってくる。
ナギが咄嗟に前へ出た。
「下がって! これは君の記憶に棲まう“拒絶”だ。自らの過去を否定する意志、それがナンナと結びついた!」
だがその攻撃は容赦なく、ナギの身体を裂いた。
白の光が迸る。ナギの片膝が地をついた。
「ナギ……!」
その瞬間、ユイの中で何かが弾けた。
左目――“白”の義眼が、強く脈打つ。
視界が反転し、世界が静止した。
そこに現れたのは、ひとりの女性だった。
白銀の髪、純白の装束。
そして同じく、“白”の義眼。
『継承者よ。これは“選択”の時。
力を解き放ち、過去と向き合う覚悟があるか――』
ユイは、強く頷いた。
「私は逃げない。たとえこの目に、どんな絶望が映っても。
私は――“生きてきた”私を、否定しない!」
その宣言と同時に、ユイの身体が光に包まれる。
義眼が閃き、彼女の周囲に白の紋章が浮かび上がった。
まるで“記録そのもの”を力として纏うように――
「これが……白の力……!」
光の中から生まれた剣を握り、ユイは影の自分へと向き直った。
もう迷いはなかった。
「あなたも私。だけど、私は……“今”を生きる」
振り下ろされた剣は、黒い影をまっすぐに裂いた。
拒絶の悲鳴が虚空に消えると、記録の空間に再び静寂が訪れた。
気づけば、ナギがユイを見つめていた。
「君は……目覚めたんだね。“完全な白”として」
ユイは静かに頷いた。
「私はまだ、全部を知らない。けれど……もう目を逸らさない。
“継承者”として、この世界の真実を知りたい」
ナギの目が細められた。
「なら、次へ行こう。“最初の神核”の記録へ。
そこには……神が犯した、最大の罪が眠っている」
記録の回廊の奥に、新たな扉が現れる。
扉の上には、古代の文字でこう刻まれていた。
“創造の罪、その始まり”
ユイとナギは、共にその扉へと歩き出す――
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次回予告:第19話『創造の罪』
神々はなぜ神核を生み、なぜそれを隠したのか――
明かされる“世界のはじまり”と、“白”の継承者に託された最後の役割。