第15話『眠りの中の色彩』
闇――
ただ、深く、静かな闇の中。
ユイは浮かんでいた。
感覚はある。けれど、体はない。
まるで夢の中の夢。
そこに、声がした。
『器よ……なぜ、拒む?』
無数の声が重なり合う。
高音も低音も、子どものようでもあり、老人のようでもある。
『おまえは選ばれたのだ。意志を持ち、力を制する“神核”として』
「選ばれた……? 私はただ、日常に戻りたいだけ……」
声が震える。
でも、返ってくる声は無慈悲だった。
『日常など、最初からおまえには存在しなかった』
その瞬間、周囲が七つの光に染まった。
赤――怒り。
青――知恵。
緑――癒し。
黄――真理。
紫――死。
黒――虚無。
そして、白――始まり。
それぞれの光が、ユイの中に問いかける。
『おまえは、何を望む?』
「私は……」
ユイの義眼が光る。
それは、すべての色を映す“虹色”。
「……私は、自分で選びたい。
誰かの器でも、誰かの武器でもない。
“自分自身”として、生きたい!」
光が震える。
『ならば、試練を与えよう』
『七色すべてを覚醒させし時、真なる契約は果たされる』
『ただし、代償は“記憶”――おまえの存在の、根幹』
それは警告か、それとも契約か。
ユイは静かに目を閉じる。
「それでも、私は進む……私の足で」
次の瞬間、まばゆい閃光が走り、ユイは目を覚ました。
見慣れた天井。レインの寝息。
そして、左目に感じる、熱。
「……新しい力が……目覚めた?」
ユイの虹色の義眼に、新たな光――“白”が、加わっていた。
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次回予告:第16話『始まりの継承者』
白の継承者――記憶の深層から呼ばれし者が現れる。
それはユイの過去に関わる、“もうひとつの真実”だった。