第14話『死神の微笑』
夜が深まる頃、ユイとレインの前に、“それ”は現れた。
黒いフードを纏い、影のように立つ少女。
その右目は、鈍い紫に妖しく輝いていた。
「やっと見つけたわ、“器”――七色の継承者」
その声は、若いが冷たい。
まるで死を告げる鐘のように、心に染み込んでくる。
「あなたは……誰?」
ユイが問うと、少女は静かにフードを下ろした。
現れたのは、白い髪、死を思わせるような青白い肌、そして――片目に嵌められた紫の義眼。
「私は“アイラ”。紫の継承者。そして、“終焉”を見届ける者よ」
レインが一歩前に出る。
「死の継承者……どうしてここに?」
「私の義眼が教えてくれたのよ。
七つの力がそろい始めた時、“神核”が目覚めると。
ならば、止めるべきでしょ? その先にあるのが『世界の終わり』なら」
「終わり……?」
ユイは戸惑いの声を漏らした。
「この世界は、神の“遊戯盤”。私たち継承者は、ただの駒。
あなたが完全な器になった時、神々は舞い戻り、全てを再構築する。
けれど――今の世界が消えるということでもある」
ユイの顔が青ざめた。
彼女はただ、日常に戻りたかっただけなのに。
なぜ自分が、そんな大きな運命を背負わされなければならないのか。
「……私は……壊したくなんて、ない……!」
その叫びに反応して、義眼が紫に染まった。
ユイの身体が震え、地面にひびが走る。
「――暴走しかけてる! ユイ、力を押さえて!」
レインが制止するも、ユイの周囲に“死”の気配が渦巻いていく。
「なるほどね、やはりあなたは“全てを呑み込む器”……。でも、まだ間に合う」
アイラが静かに手を伸ばし、ユイの額に触れる。
「……眠りなさい、“死”の波動よ」
その瞬間、紫の力が静かに鎮まっていく。
ユイはその場に倒れ、意識を失った。
「……いずれ、また来るわ」
そう言い残し、アイラの姿は霧のように消えた。
残されたレインは、ユイを抱きしめながら呟いた。
「どうすればいいの……ユイ……。
あなたは、ただ生きたいだけなのに……」
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次回予告:第15話『眠りの中の色彩』
意識を失ったユイが見る“七神”との邂逅。
記憶の奥で交わされる、真実の契約とは――