第10話『灰色の追跡者、鋼の手を持つ者』
病院の外――
黒塗りの車が一台、音もなく停まった。
運転席から降りてきたのは、スーツ姿の長身の男。
無表情の顔、そして左目に埋め込まれた灰色の義眼。
彼の右腕は、肘から先が金属の義肢になっていた。
「目標、覚醒確認。七色反応あり。
コード名:セブンス、拘束対象に移行」
低い声でそう呟くと、男は病院の中へと歩き出した。
一方その頃、ユイはまだ混乱の中にいた。
「……七色が、揃った? でも、私……全部を受け入れたわけじゃ……」
そのとき、病室のドアが爆音と共に吹き飛ばされた。
鋼の義手が壁を砕き、灰の光が空間をねじ曲げる。
「ユイ=セブンス、同行願おう」
男の声は、冷たい。
まるで感情の欠片もない、プログラムのような口調だった。
「……誰?」
「俺の名は“グレイ”。
“灰の追跡者”。この義眼の力は、対象のスキル・力・能力を無効化する」
彼の灰色の義眼が光ると、ユイの虹色の瞳から光が失われていく。
「な……に……!? 力が……」
崩れ落ちそうになるユイを、カイが支える。
「逃げろ、ユイ! 今の君は、まだ――!」
カイが拳を握った瞬間、グレイの義眼が再び光り、カイの動きが止まった。
「無駄だ。対象周囲十メートル圏内の“力”は、すべて灰に帰す」
金属の義手が唸りを上げ、カイに振り下ろされようとしたそのとき――
「やめなさい!」
新たな声が響いた。
風を切って飛び込んできたのは、白いコートの少女。
左目には、雪のような白の義眼が宿っている。
「“白の継承者”……!? 干渉権限外、ここで何を――」
「“保護任務”。七色の均衡を乱すなら、あんたの存在も無効よ、グレイ」
白の義眼が輝くと、灰の光が打ち消され、ユイの身体に力が戻っていく。
「……白……あなたは、味方なの?」
「少なくとも、今はね。私は“レイン”。
七色の均衡を守る者として、君を守る義務がある」
視線を交差させるユイとレイン。
灰と白の力が拮抗し、空気が震えた。
――七色の継承者たちが、徐々に集い始めていた。
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次回予告:第11話『白の守護者と、崩れる均衡』
白の継承者・レインと共に逃れるユイ。
だが、七色の均衡が崩れ始めたとき、世界に歪みが生まれる。