9.週明けの非日常
登校中の電車はかなり空いていた。別に下りだから普段からそこまで混んでないのに。まあいいや座れるし。私は席に座ってデートのことを思い出す。
(楽しかったなぁ。バンドもすごく良かったし)
(よく良く考えれば明後日は西園寺さんとのデートなんだよなぁ。楽しみだな〜)
そんなことを考えているうちに学校の最寄り駅に着いた。
改札を出て学校に向かおうとすると西園寺さんを見かけた。
「西園寺さん、おはよ〜 いつももっと早いのに珍しいね?」
「あぁ、おはよう。実は大切な物を無くしてしまってね。いつもカバンにつけていたはずなのに…」
「そうなんだ。良ければ探すの手伝おうか?」
別に学校に行くまでまだまだ時間はあるしね。
「それは…申し訳ないよ。朝の貴重な時間を奪うことになっちゃうし…」
「別にいいじゃん!私たち友達なんだから」
「しかし…」
西園寺さんは私が手伝うことをかなり渋っているようだ。別に手伝うくらいなんて事もないのに
「いいの!私が手伝いたいから手伝わせて」
半ば暴論な気もするが私はこの気持ちを曲げたくない。西園寺さんともっと話したいし困っている友達を見捨てるなんて出来ない。
「そこまで言うなら少しだけ手伝って貰おうかな。」
「やったー!ところで何を失くしたの?」
「紫のお守りをね。私にとって凄く大切な物なんだ。」
「大きさはどれくらいなの?」
「だいたいこの位かな」
そう言って彼女は手で大きさを表す。
「分かった。とりあえず電車降りてから通った道を戻ってみよ」
「そうだね。改札前には無さそうだからそうしようか。」
私達は何度も何度も来た道を往復した。かれこれ20分は経っただろうか。全く見当たらない。
「もう学校に向かわないと遅刻してしまうよ。私の事は良いから君は学校に行きな」
そう彼女に言われたが、ここまで探して諦められるわけが無い。私は意外に頑固なのだ。
「嫌だよ、私も一緒に探す。それに1人で探してたら西園寺さんも遅刻しちゃうじゃん!」
「別に私はいいんだ。失くしたのも私の過失だしね。それに私は今まで遅刻したことも無いし1回くらい大丈夫さ。」
「私も遅刻した事ないし!それに1回手伝うって決めたら曲げたくない。」
「君は…本当に強情だね。別にもう手伝わなくて良いって言ってるんだ。私一人で十分だよ。」
それを言った後、私は少し不機嫌な顔になる。その顔を見て西園寺さんは後悔したような顔をした。
「あっ…その…違うんだ。もちろん手伝ってくれた事はとても嬉しかったんだ。でも…私は君の経歴に泥を塗って欲しくないんだ…」
「分かりましたよ。私の力なんて必要ないんでしょ〜」
「ちっ違うんだ…そういうつもりで言ったわけじゃ…」
「それも分かってるよ。西園寺さんは私の事をすごい考えてくれてるんだよね。でも…でも、私は西園寺さんのために少しでも力を貸したい。西園寺さんが泥を被るなら私は一緒に泥まみれになりたい。」
「それで2人でその状況を笑う…そんな関係になりたい!」
なんかコレ告白みたいじゃない?ちょっと恥ずかしいんだけど。まあいいや、本音だし。
私の大きな声は駅の喧騒のせいでそんな遠くには伝わらないかもだけど、近くの西園寺さんには私の気持ちと一緒によく伝わったようだ。
「ありがとう…ありがとう…私のために…」
西園寺さんの目から涙が零れる。嘘でしょ!?こんな事で泣くの?あの時の教室でも泣いてたしもしかして西園寺さんって涙っぽい?
「違うんだ…今まで他人にこんなに大切にされた事が無くて…だからとても嬉しかったんだ」
「ありがとう。君の事がより好きになったよ」
大切にされた事がない?今まで甘やかされて育ちましたってくらいワガママなのに。
「はいはい。ところでさっきの言い合いの内にもう遅刻確定だけど?」
「あはは、結局一緒に泥を被ってしまったけど、それを笑い合うというのも存外悪くないね」
「でしょ?」
そう言って私達はお互いの顔を見つめあった。
「とりあえずもうこの駅にはないんじゃない?」
「そうだねここまで探して見つからないという事はその可能性の方が高い」
「ん〜どうする?」
「私は家に戻る電車に乗って家から最寄り駅までの道も確認しようと思うんだけど…着いてきてくれるかな?」
西園寺さんは恥ずかしそうに私に聞く。さっきまで迷惑かける訳にはいかないと思っていたけど私を頼ってくれる。それが嬉しい。西園寺さんみたいな完璧に近い美少女に頼られるのは当然嬉しいに決まっている。
「言うまでもないでしょ。行こ行こ」
私と西園寺さんの乗る電車は線路が違うから通学定期は使えないけど、困ってる西園寺さんのためならこんな端金惜しくない。
駅から降りて西園寺さんの家に向かいながらお守りを探す。地味に西園寺さんの家って知らないんだよな〜
なんならこの駅すら初めて降りた。都会って感じの駅で少し苦手だな。でも私はJKだし、都会も大丈夫ですけど!?
「めっちゃ人多いね。それに学校からも結構遠いし…大変じゃない?」
「まあね。でも学校は楽しいし、そもそもこの学校を選んだのは私だからね」
かなり探しているうちに西園寺さんの住んでいるマンションに着いてしまった。だけどお守りは見当たらなかった。
「どうしよ、結構探したんだけどね。この後どこ探す?」
「どうしようか。まさか見当たらないなんて」
西園寺さんは少しパニックになってしまっている。
学校を遅刻してまで探すくらいなのだ。西園寺さんにとってとても大切なものなのだろう。一緒に探しているとそれがひしひしと伝わる。
「もしかしたら家の中に置いてきたって事もあるんじゃない?」
「確かに、それも無いとは言い難いね。」
「少し待っていてくれ。探してくる。」
10分くらいエントランスの前で待っていると西園寺さんがやって来た。彼女は凄く申し訳なさそうにしている。これは…もしかして?
「本当にすまない。こんなに手伝って貰ったのにまさか…まさか家にあるなんて」
「別に良いって。大切な物なんでしょ?見つかって良かった!」
今の時間は12時過ぎだ。今から学校に行ってもほとんど意味は無いだろう。
「せめてお詫びをさせてくれ。その…あの…」
西園寺さんが急にモジモジしだす。
「もし良ければ学校サボって、私の家でもてなさせてくれないかな?」
「ふーん。西園寺さんにもサボるって決断できるんだ」
「だって君は私と一緒に泥にまみれてくれるんだろう?」
「ふふふっ ワガママになっちゃって」
「まあここまで来たら遅刻も欠席も変わらないしね。今日は不良生徒2人で遊んじゃおっか!」
「それなら良かった。じゃあ私についてきてくれ」
私は西園寺さんに連れられて自動ドアを通った。