ベランダに観覧車が突き刺さっている
朝起きたらベランダに観覧車が突き刺さっていた。
へえ……。そういうこと、あるんだ。
私は外に置いてある洗濯機に入れる予定だった洗濯物をいったん足元に置き、腕組みをする。それからカーテンを一度閉め、開けた。
ベランダには観覧車が突き刺さったままである。しかもギカギカ……と軋みをあげながらまだ回転をしようとしていた。
「アキちゃん! アキちゃん大変! ベランダに瀕死の観覧車がある!! 家出してきたのかなぁ!?」
「寝言は寝て言いなさい」
ルームメイトが気だるそうに顔をのぞかせた。
私が指差す方向を見てしばらく無言になったあと、彼女は「なるほどね」とつぶやきながら自室に引っ込もうとした。
家賃を折半しているのだから現実の直視も折半するべきだろう。彼女の肩を引っ掴み、ベランダに連れて行く。
「アキちゃん、これ大家さんになんて言う?」
「何言ってもアウトでしょ」
「どうしよう」
「……よしっ」
ルームメイトは気合の入った声を出し、床に置かれた洗濯物をかき集めた。
「頭を冷やそう。散歩がてらコインランドリーに行くぞ」
現実逃避であった。肝はもう冷えてるんだけど。
「知らないよ? 帰ったとき、私たちの部屋が観覧車のゴンドラのひとつになっているかも」
「いいね。あたし、観覧車に住みたかったんだ」
「住みたかったなら、まあいいか」
ちょっと考えてみたけど、そんなに悪くはないかもしれない。どうかな。それなりには悪いか。
細かいことは散歩しながら考えよう。
私はコインランドリーに使うための小銭を探すことにした。