はじまり
「君、今日でクビだから」
「ってなわけで、明日から来なくていいよ」
突如告げられた解雇通告。
それに、猫森 咲夜は目を丸くした。
その猫森の姿。
それを、オーナーにあたる男は笑う。
そして、続けた。
「猫カフェはもう時代遅れなんだ。近頃、猫目当てでこのカフェにくる客も減った。それに、君はもうアラサー女子。普通のカフェでやっていくにしても、若い女の子のほうが客受けはいい」
「で、でも。いきなり」
「いきなりもなにも、あんたはタダのバイト。使い捨て。いい年なんだろ? 理解してくれ」
「……っ」
確かに、猫森はアラサー。
いい年だ。
だが、ここで働き続けているのには理由があった。
それはーー
「にゃー」
猫森の足元。
そこで鳴き声をあげる、一匹の猫。
三毛猫の雌。名を、タマという。
猫が大好き。
そんな理由があったからだった。
「にゃー」
「んにゃー」
猫森の足に尻尾を絡ませて、甘えるタマ。
その姿に、猫森は声を発した。
「こ、この子たちはどうなるんですか?」
猫カフェ。
なので、店には何匹もの猫が居る。
「ど、どこかに引き取り手でも」
「決まってるだろ」
嫌な予感がする、猫森。
果たしてその予感は的中してしまう。
「この猫共もオマエと同じで戦力外。明日朝一番に、業者に引き取ってもらう」
「そ、そんな」
「オマエには関係のない話しだ。ってなわけだ。後、数時間で閉店。それまでに最後の掃除でもしておけ」
猫森の涙目。
それを鼻で笑い、店を後にするオーナー。
残される、猫森と猫たち。
「にゃー」
「んにゃ」
「……っ」
泣きそうになる、猫森。
その猫森の姿に猫たちも悲しげな表情を浮かべてしまう。
たかがバイトの自分。
そんな自分にはどうすることもーー
刹那。
眩い光。
それに包まれる店内。
そして、猫森と猫たちが呆気に取られている内に、猫カフェは、その場から消えていったのであった。