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03.変のトライアングル Ⅱ


「は……? え、何で……」


 まだ日に焼けていないところを見るに、新しい掲示のようだ。

 幸い似顔絵のみで、写真までは出ていない。肝心の罪状の部分を読んでみると、どうやら元の世界でいう虚偽告訴罪のような容疑をかけられているらしかった。

 もちろんだが、全く身に覚えがない。被害は専ら受ける側だ。虚偽告訴罪の虚偽告訴?


 最初はマゾ男たちを騎士団に突き出そうなんて考えていたが……これでは、その前にこちらがお縄だ。

 ただ、町人たちはこちらに気付く素振りはなかった。それどころか一瞥くれることさえない。この人混みの中に居ては、はぐれた仲間を探しでもしていない限り、わざわざ他人を気にする人間なんて居ないだろう。名前さえ呼ばれなければ、周囲の人々には気付かれない筈だ。


「おーい!」


 誰かを探すような声が聞こえてきた。

 ……マゾ男の声だった。

 人混みの中でもやはりマゾ男はすぐに見つかった。すぐさま向こうから見えない位置に身を隠し、影から彼の様子を窺う。


 マゾ男はきょろきょろと人混みを見渡している。

 何してんだあいつ……いや、多分あの様子だとあたしを探しているのだろう。まさかもう店を見つけてきたわけではあるまい。折角撒いたのに……

 とにかく、名前は呼ぶなよ…―――そう願った瞬間。背後から大きな声が上がった。


「エナ! やっと見つけた!」

「呼ぶな―――ッ!!」


 不意打ちで囁かれた驚きと名前を呼ばれたことへの焦りで、思わず掛けられた声よりも大きな声量で叫んでしまう。

 町行く人々の視線がこちらに集まる。慌てて声の主を押しやって、二人で路地の奥に隠れた。


 背後にいたのは説明するまでもなくヤンデレ君だった。こんなに早く店を見つけられるとは思えないので、大方解散したと見せかけてあたしを着けていたのだろう。

 名前を呼んだ上で「やっと見つけた」とかいう賞金稼ぎっぽいワードをお出ししてきたので、必要以上に焦ってしまった。自分の唇に人差し指をたて、喋るなというジェスチャーを投げるが、彼は首を傾げるだけだ。


「どうしたんだエナ?」

「だからそれ! 名前! 呼んじゃだめ―――」

「ここに居たのか」


 再び背後から声掛けがあった。振り向くと、やはりそこにはマゾ男がいた。声を荒げてしまったせいで見つかってしまったらしい。

 間もなくマゾ男は壁の掲示に気付き、それとあたしとを交互に見て、何故か普段より大きな声量で話し始める。


「この賞金首、お前じゃないか! 一体何をしたんだ?」

「ふ―――ざけんな!! アホ!!」


 マゾ男の口を手で物理的に塞ごうとするが、凄まじい反射神経で避けられ続ける。こんなところで身体能力を発揮するな。


「えっ、これエナか……実物のほうが可愛いよ」

「そういう話じゃねーのよ! と、とりあえず町出るから!」

「え? 店は……」


 二人を置いて人混みの流れの中に戻り、町の門へと引き返した。

 マゾ男が後ろから「なんだ、逃げるのか」と挑発的な問いかけを投げてくる。あたしは思い切り眉をひそめて彼に一瞥をくれてから、不機嫌丸出しの声色で返した。


「まさか衛兵とか騎士団と戦いたいとか言わないよね?」

「いや、衛兵と揉めるのはまずい」


 宿に不法侵入して壊した割にはそこらへんは分かるんだな、と意外に思っていると、続けてマゾ男は「捕まると出るのが面倒だ」と言った。ああ……経験済みだったか。


 その隣で「そうでなくても昔からエナは変な男に絡まれやすいんだ。用心するぞ」とヤンデレ君が話しだす。

 お前が言うな―――と喉まで出かかった言葉をぐっと堪えたが、後で口出しをすれば良かったと少し後悔する。ヤンデレ君が挑発じみた言葉をマゾ男に投げたのだ。


「何より、おまえが何をするかも分からないしね」

「……フン。やる気か?」


 この状況でまた喧嘩か……!

 再び人々の視線が集まりだしたので、あたしは二人を無視して駆け出し、騒ぎになる前に門を潜った。


 それにしても、まさかこんなイレギュラーで入って早々に街を出ることになるとは。

 走ったまま背後を振り返るが、二人はやはり数歩後ろにしっかりと着いてきていた。最早逐一言及するまでもないだろう。


 二人の向こうで段々と遠ざかっていく門を見つめる。

 ……ああ…あたしの朝食と安眠が股遠のいていく……この二人に挟まれて、果たして安眠できたかは分からないけど。

 最近、妙にイレギュラーばかり続いている。転生してからも波乱万丈な日々を送っていたけど、どうも最近はその頻度が高い。

 神様のいたずらか、この変態を引き寄せる体質が悪化しているのか……なんて考えていても答えが出るような問題ではないので、他のことを考えることにした。



 さて、これからどうしようか……

 この国は小さいので、指名手配の情報が出回るまでそう時間はかからないだろう。ほとぼりが覚めるまで、別の国に逃げていようか……


 ただ、今は出国するまでの生活資金さえ危うい。主に賠償金のせいでごっそり減ってしまったのだ。換金できそうなものもあるが、それは最終手段として取っておきたい。情報が出回る前に国境を超えたいところだけど……

 残っているのは戦闘狂マゾ男とヤンデレストーカーだけときた。


 正直、どちらにも借りは作りたくない。二人とも借りを返せと言うような人間には思えないが、なるべくヤンデレ君とは距離を置いた方が良いだろうし、マゾ男は戦闘以外で役に立ちそうにない。何より他人の手を借りるのは……嫌だ。

 どうしようかと悶々と考えあぐねていたが、睡眠不足と空腹のせいか、ろくな考えが思い浮かんでこなかった。



 とぼとぼと道を歩いていると、無数の足跡、そして争った形跡のある道が見つかった。夜明け前、山賊たちと争った地点だ。やっと戻ってきたらしい。

 倒れていた山賊たちの姿は周囲に無い。どこかにある拠点に引き返したのだろう。

 そこで、あることを思いつく。


 足を止め、背後にぴったりとついてきているマゾ男とヤンデレ君に向き直る。


「二人とも……野宿はしたくないよね?」


 あたしのその言葉を聞いて、二人は首を傾げていた。



   ◇


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