14.国境線前の戦い Ⅳ
一方その頃。
「こんな時にお仲間の心配ですか?」
戦いの最中、アマゾルクへ悠長に問いかけるクロラグニア。アマゾルクの視線が自身に向きつつも、身が入っていないと気付いたのだろう。恐らくアマゾルクは、分断されたエナ、レデヤのことを気にかけていると。
「レグティフは唯一の攻撃型の魔具持ちです。貴方でなければ攻撃は防げないでしょうね……」
「……そうだろうな」
「メッサは説明不要でしょう」
「ああ。見れば分かる。魔具は持ち合わせていないようだが、強いのだろうな」
部下が持ち出してきた棺から、武具を次々に取り出す。
櫛のような形をした鋸、縄でできた鞭。冷静に武具を取り替え、代わる代わる攻撃を繰り出し、アマゾルクに応戦するクロラグニア。あくまで刑戮を主たる任務とする騎士団の長でありながら、武具の扱い方も巧みである。
だがアマゾルクもこの程度ではやはり負けず「やはり強いな」と勢いづいていく。
攻撃―――と思わせたところで、アマゾルクの首めがけ、リボン状の魔具を巻きつかせた。
咄嗟に首を両腕で防護するアマゾルク。だがリボンはそれごと巻き込んで、両手の自由を奪う。破ろうとするも、薄いながらも魔具のそれを、アマゾルクであっても引き裂くことはできなかった。
その間にクロラグニアは鞭も足元に絡みつかせ、アマゾルクの四肢を完全に封じる。
「やはり……魔具であれば、多少は束縛できるようですね」
棺から鏡を取り出し、アマゾルクの前に掲げた。
「フ。俺の無様な姿を見せつけるのが目的か?」
「……フフフ。それが主な目的ではありますが……それだけではありませんよ」
「残念だが、追い込まれれば追い込まれるほど俺は燃え上がるぞ」
含みを持たせた言葉をこぼすクロラグニアに、久方振りに変態じみたセリフを返すアマゾルク。だがその傍らで、努めて冷静に取り出された鏡を観察し始めた。
この鏡もやはり魔具ではあったようだが、攻撃に用いるものではないらしい。一般的な鏡と変わらず、アマゾルクの姿を映すばかりで、一向に次の動作に移らない。普段は平坦なアマゾルクの声色が、あからさまに落胆を示す。
「……やはり、戦う気はないか」
「ええ。捕縛が目的ですからねぇ」
そう答えつつ、クロラグニアは鏡面を覗き込み、一言「ふむ」とだけ声を漏らす。変わらず微笑みを湛えたままで、その奥に秘めている感情は計れない。
クロラグニアが鏡を棺桶に収めたところで、アマゾルクは会話を再開する。
「本気のお前と戦いたかったのだが」
「うーん……私としましても、手っ取り早く殺して終わらせたいのは山々なのですが―――」
「クロラグニア。こっちは終わったぞ」
会話の最中、遠方でレデヤと交戦中だったレグティフがやってきた。……打撲痕と火傷の跡にまみれた、レデヤの首根っこを掴んで。
クロラグニアに確認させるよう、それを持ち上げてから、彼を持ち上げていた手を離す。その場に頽れるレデヤ。息はあるようだが意識を失っているらしく、地面に倒れた後も起き上がる様子はなかった。
そんな彼を尻目に、レグティフはクロラグニアに問いかける。
「ところで、その男の正体は分かったか?」
「ええ……あなたの仰った通り、原理はこれや貴方のそれと同じです」
そう言ってクロラグニアが指し示したのは―――レグティフの足甲の魔具だった。それにレグティフは驚く素振りも見せず、眼鏡をかけ直す。
だが、アマゾルク本人は違った。
エナたちの目の前では一度も見せたことのない、苦虫を噛み潰したような、不愉快そうな表情を浮かべていた。
滅多なことで感情が動く男ではない。図星だったのだ。クロラグニアが示した事実は、彼にとって何よりも指摘されたくないことだった。
「そう……殺せないのであれば、残念ながら私は未来永劫貴方のお相手をすることはできませんね……」
「全く。すぐ殺そうとするのはやめろ」
敵を前にして悠長に閑談をする二人。それを次に遮ったのは、アマゾルクではなかった。
「捕まえたよ」
メッサが武器の代わりに大荷物を抱え、二人の会話に割って入る。
彼が姫を抱えるように運んできたのは―――エナだった。大きな怪我は目視では確認できなかったが、ぼろぼろになった服に血が滲んでいる。
それを確認した直後、アマゾルクの顔が普段の無表情に戻る。普段の冷静さを取り戻したのだろう。それからアマゾルクは、かねてより抱いていた疑問を、騎士団長三名にぶつけた。
「以前も訊いたが……エナにここまで固執する理由は何だ?」
その問いかけに、クロラグニア、レグティフ、メッサの三名が顔を見合わせる。
最初に動いたのはレグティフだった。答えても問題ないだろう、といった風に二人に目配せをする。最終的にアマゾルクへ答えを返したのはクロラグニアだった。
「その女性は、私が取り逃がしただけの軽犯罪者―――の、筈だったんですがね……」
クロラグニアはアマゾルクを縛る魔具を緩めず、語り続ける。
「国境目前までお越しいただいたところ申し訳ありませんが……ひとまず、国都までお引き取りいただきましょうか。このお話の続きは、私の仕事部屋でお教えしましょう」
クロラグニアのその締め括りの言葉を皮切りに、騎士団員たちが帰宅の準備に動き出す。
そしてエナたちは、再び騎士団の拘束下に置かれ―――この国の首都・ハシュタブルクへ向かうことになるのであった。




