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13.夜空の上で Ⅲ



 あの後、ロリネさんとお父上、数名の使用人たちは、馬車で診療所へと向かっていった。

 少し遅れてあたしたちも鞄に乗って後を追う。鞄の中にはモレウさんとロリネさんの服や、日用品などの私物を咄嗟に詰め、万が一のためにと買い出した花火を手に抱えて翔び立った。


 モレウさんが焦っていたためか、半ば墜落するような形で着地してしまう。

 着地の衝撃で鞄が開き、中に詰めていた荷物が溢れ出す。鞄とその内容物がクッションになったこと、レデヤ君が咄嗟に守ってくれたことで、あたしは少しのかすり傷でいられた。


「レデヤ君、モレウさん、大丈夫!?」

「うん、これくらい平気だよ」


 レデヤ君は……きっと大丈夫じゃなくても大丈夫と言うのだろうな。暗闇でも見て取れるような怪我はないけれど、少し心配だ。

 一方モレウさんは、あたしからの呼びかけを気にも留めず、着地の勢いのまま立ち上がった。だが数歩踏み出したところで減速し、そのまま立ち尽くしてしまう。

 一体どうしたのだろう。レデヤ君と共に起き上がり、モレウさんの近くへ歩み寄ると、彼は一言、こう呟いた。


「………罰ッス……」

「え……?」


 しばしの沈黙を置いて、ようやくモレウさんが口を開いた。


「これは預言じゃなくて……きっと、今まで逃げてばっかだったオレへの罰なんスよ……ロリネも、ロリネの親父さんも………オレ、何をするにもてんでダメで……親父の遺産を食い潰す前も、一応働いてたんです。でも、なんにもできないグズでッ……そこからなんべんも逃げてきたんス………」

「も、モレウさん……」


 なんと駄弁でものろけでもない、泣き言のマシンガントークが始まってしまった。あたしは名前を呼ぶこと以外何もできず、彼の話を聞き続ける。だが、彼の話はそれ以上は続かなかった。


「……この花火だって……何の役に立つんだか」


 そう言うと、モレウさんは後方へ力なく花火を投げ捨てる。

 ……その花火を受け止めたのは―――内容物が溢れ、開かれた鞄の中だった。


「あ」


 鞄は溢れ出した何着かの服や布地を巻き込みながら、ひとりでに閉じてしまうと、その場にふわりと浮かび上がる。


 しまった。この魔具は、鞄の中に物を入れてしまうと―――

 だが、何やら浮遊後の挙動がおかしかった。先ほどの着地で故障してしまったのだろうか、ばちばちと火花を散らしながら、そのまま夜空めがけて飛んでいく。

 その火花が布地に飛び、鞄は途中で火と煙を吹き始め……最終的には、中の花火にまで引火してしまったのだろう。町の遥か上空まで打ちあがった瞬間、大きく爆発した。


 魔力から発生する独特の光を放ちながら、本物の花火のように夜空へ散ってゆく鞄。

 しばらくしてから、少し前まで鞄だったものの欠片が、小さな火を宿したまま、軽い音を立てて足元へと落ちてきた。幸い、この町は屋根まで含めて石造りの建物が多い。ここから建物等へ延焼する可能性はないだろうし、夜間町中を出歩いている人もいないだろうが………


「あ……ああっ………そんな………」


 夜空を仰ぎながら、モレウさんが膝から崩れ落ちる。

 ……彼の大事にしていた魔具が、これからの生活の頼みの綱が……燃えて、なくなってしまった。


 モレウさんは、すぐ目の前に降り注いできた鞄のひとかけらを見て、遂に悲痛な大声を上げた。


「オレッ……オレ、いっつもいっつもこうなんス……! そそっかしくて、こんな不注意ばっかで……」

「も、モレウさん…! しっかり……!」

「これじゃもう、どこにも行けねー………ッ」


 モレウさんには、あたしの声は聞こえていないようだった。

 ……あたしは変な男の対処には慣れているけど、こういう時の男性への対処法は一切習得していない。こんな時……どうすればいいのだろう。


 再び何もできずに立ち尽くしていると、その横でレデヤ君が動き出す。おもむろにモレウさんの傍らへ歩み寄っていったのだ。

 近付いてきたレデヤ君に気付いたのか、ようやくモレウさんが泣き言を止めて顔を上げる。そのタイミングで、レデヤ君は彼の胸倉を掴み上げてしまった。


「諦めるのか?」

「れ、レデヤ君……!? ちょ、ちょっと……!」


 あたしをよそに、モレウさんへ発破をかけるレデヤ君。慌てて制止しようとするも、珍しくあたしの言葉を聞いてくれない。だが、その荒っぽい行動とは対照的に、先ほどのモレウさんとの会話に割って入った時と同じように、淡々とした口調だった。


「飛べなくても、門なんかその体で乗り越えればいい。塔だって壁面をよじ登っていけばいい。好きな女のためなら、苦じゃないだろ」


 流石、町を跨いで何年もストーカーを続けてきただけある。全く褒められたことではないけど……。

 その言葉を受けて、次はモレウさんが口を開いた。


「っでも……今オレなんかが行っても、ロリネは………」

「今おまえが支えてやらないでどうする。病室なんてすぐそこだろ。行け」

「でも……!!」

「好きな女からも、逃げるのか?」


 ドスの利いた声で、レデヤ君はモレウさんに迫る。

 端から見ると、ただの恫喝だった。実際、ほとんどそうだったと思う。

 だがモレウさんはそれを叱咤と取ったらしい。レデヤ君が手を離されると、意を決したように顔を上げ、すぐに診療所へと駆け出した。



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